ウィキリークス現状まとめ | Loch's Note

ウィキリークス現状まとめ

ウィキリークス騒動が複雑になってきたので、ここにまとめてみる。

【要約】
ウィキリークスが大量の外交公電を公開。アメリカが強烈に批判し、いくつかの米企業はウィキリークスとの関係を断絶する。スウェーデンでの性犯罪疑惑で国際手配され、イギリスで逮捕されたアサンジ氏。現在は保釈されてイギリスで軟禁中だが、アメリカへの引き渡しが水面下で模索されていると言われる。

【各論】
1、ウィキリークス支持派の意見
2、アメリカへの引き渡しは実現するのか
3、報道の自由と国家安全保障のバランス


まずは事件の流れを見ていき、各論に移る。

■11/28
ウィキリークスが公開開始
■11/30
アサンジ氏、国際手配される
■12/1
アマゾンがサーバー内のウィキリークスサイトを削除
■12/3
PayPalが送金停止
EVERY DNSがドメイン停止

■12/5
Anonymousがウィキリークス反対派へのサイバー攻撃を呼び掛け
■12/6
PostFinanceがアサンジ氏の口座を凍結
■12/7
マスターカードとビザが取引停止
アサンジ氏、イギリスで出頭し、逮捕
■12/8
PayPall、マスターカード、ビザがサイバー攻撃を受ける
ウィキリークスのミラーサイトが1200を超える
■12/10
オランダ人ハッカーがサイバー攻撃疑惑で逮捕
■12/14
アサンジ氏、20万ポンドで保釈
■12/16
米下院でスパイ法改正を協議へ
■12/18
Bank of AmericaがウィキリークスへのPaymentを停止
■12/19
米副大統領がアサンジ氏をハイテクテロリストと揶揄
■12/22
アップルストアがウィキーリークス閲覧ソフトを削除

青字が企業の反応となっている。現在アサンジ氏は保釈されたが、スウェーデンもしくはアメリカへ引き渡しされるのではという不安の下、軟禁状態で活動を続けている。



1、ウィキリークス支持派の意見

支持の程度に差はあるが、著名なものをピックアップした。

フランス司法
産業相のエリック・ベッソンがフランス国内のホスティング会社にウィキリークスの禁止を要求するが、リール裁判所で要求は棄却された。

Anonymous
いくつかの活動家とハッカーからなるグループ。ウィキリークス反対派のウェブサイト攻撃を呼び掛けおり、実際に攻撃にも関与したとされる。

マイケル・ムーア
保釈金2万ドルを提供し、ウィキリークスの発展と存続のためサーバーやドメインなど何でも提供すると宣言。ウィキリークスを、秘密の中ににまぎれ私達の税を使い実行した犯罪を暴く仕事、と賞賛している。

プーチン首相
アサンジ氏が投獄された事を非民主的と非難。

ルラ大統領(ブラジル)
手の届かないと思われた民主主義を白日の下にさらした人物だと評し、アサンジ氏の逮捕を表現の自由に対する攻撃だと批判した。

ナビ・ピレー国連人権高等弁務官
「民間企業や銀行、カード会社が圧力を受けてウィキリークスとの商的取引を停止したのは、情報公開への検閲行為と解釈することができ、潜在的にウィキリークスの表現の自由を侵害していると言える。」

チャベス大統領(ベネズエラ)
公開文書の中に米政府がベネズエラを孤立させようとした事が含まれていたことに言及し、「ウィキリークスの人々の勇敢さと勇気を祝わなければならない。」と言った。

フランク・ラルエ(国連特別調査委員会)
「アサンジとウィキリークスの他のスタッフは、広めた情報に関していかなる法的責任に問われるべきでない。もしリークに責任が生じるのなら、責任は公開したメディアではなく漏洩させた人間に排他的に生じるべきである。このようにして透明性が確保されるわけであり、このようにして多くの汚職は明るみに出てきたのだ。」

リークを大々的に批判しているのがアメリカ政府と言う事もあり、ウィキリークス支持派には必然的にロシア、ベネズエラなどの反米勢力が出てきている。それぞれを見てみると、主張の多くは表現の自由や民主主義を論拠として、ウィキリークスを支持している事が分かる。



2、アメリカへの引き渡しは実現するのか

アメリカに多大な被害を与えたという事で政府はアサンジ氏をアメリカの法廷で裁きたいようだ。国際手配を通じて足止めをしているのは、水面下でアメリカが引き渡し交渉をしているという可能性も否めなくはないが、その真偽はここでは触れない。

むしろアメリカへの引き渡しを阻害する要因が多々あるため、それについてここでは考える。問題点は、引き渡しの妥当性、国内法適応外、適用法律の不備、アサンジ氏の関与の程度の3つである。

第1に、引き渡しに妥当性がないかもしれない。今回プレイヤーとなっている国は、イギリス、スウェーデン、アメリカである。これらの国の間では犯罪者引き渡し条約が締結されているが、引き渡しが可能なのはお互いの国で犯罪と法定されている犯罪者のみである。報道の自由が世界で最も認められているスウェーデンで、今回の情報公開が犯罪と認定される可能性はそれほど高くない。さらに、スパイ活動は政治犯に分類されるが、これらの国ではそもそも政治犯の引き渡し自体が認められていない。そのためアメリカへの引き渡しが実現する可能性は低い。

第2に、国内法適応外の問題がある。原則として、アメリカの法律はアメリカ国内での出来事を裁くものである。だがアサンジ氏はアメリカ国民でもなけらばアメリカに居たわけでもなく、アメリカのドメインも使用していなかった。たとえアメリカへ引き渡したとしても、国際法ならまだしも一国家の法律で裁くのはかなりの違和感がある。

第3に、適応法律の不備がある。まずアメリカに諜報活動自体を犯罪とする法律はない。今回適応されるでろう法律は【Espionage Act of 1917】と呼ばれる法律(以下スパイ法と略す)であり、100年近く前に制定されたものである。スパイ活動に関する内容を概略すると「米国に危害を加えるために使われるだろうと意図して国防に関する情報を手に入れることを犯罪とする」となっている。ただ、今まで適用されてきたのは海外に秘密をリークした政府高官であり、米政府とも海外政府とも関係のないアサンジ氏に適用されるのは異例である。

そこを見逃したとしても、スパイ法がかなり時代遅れなこともあり、リークに関して情報漏洩と情報公開を別離していない。ここで問題視されるべきは情報漏洩の方であり、むしろメディアによる情報公開は国際慣例上有罪となることはほとんどない。そこを厳密に区別すれば、アメリカ政府がアサンジ氏を裁くには、彼が情報漏洩に積極的に関与した事を証明する必要がある。つまり、ウィキリークスで公開した事ではなく、技術的援助なり資金的援助をした事を以て罰するのである。

実際にはスパイ法は16日に改正協議に入っており、ジョー・リーバーマンらが出したSHIELD ACT案が議論されている。内容はかなり過激で「諜報機関情報提供者の名や機密文書に関する情報、外国政府や米国の諜報活動に関する情報を公表する事を、アメリカの国益を害するならば全て違法とする」である。あからさまにアサンジ氏をターゲットにしており、あまりにも言論統制の臭いが強烈なので、このまま成立してほしくはない内容である。ただアサンジ氏を裁くにしても、罪刑法定主義からして、改正した後のこの法律で裁くのはルール違反だと思う。

最後にアメリカがアサンジ氏を裁くためのハードルをまとめてみる。犯罪者としてアメリカへ引き渡してもらう、国内法を適用する口実を作る、積極的関与を証明する、である。ここ1カ月くらいで急展開する気がするので、目が離せない。



3、報道の自由と国家安全保障のバランス

今回問題になっていたのは、2つの概念の衝突である。ウィキリークス支持派は報道の自由という概念を最優先の正義と考え、反対派は国家安全保障の最優先を正義だと考えている。

他の見方をして見れば、報道の自由は純粋な理想としての在り方である。報道の自由の下では、大量の情報が提供される。人々がその情報を受け取って判断をする中で、正しい情報が生き残り、間違っている情報は淘汰される。その過程で社会は抑圧から解放され、より良い社会ができあがるという、半ば自由市場主義が最大幸福を作り出すといった思考と似た考えである。

対して国家安全保障の最優先は、現実的な見方である。報道の自由が行き過ぎた社会では、国家の信頼や尊厳が失われてしまうことがある(多くの場合自業自得なのかもしれないが)。長期的に見れば政府が転覆してより良い社会ができるかもしれないが、それは短期的に巨大過ぎるショックを伴うため、政府はそれを防ぎ、時間をかけてショックを吸収しつつ着地点を模索するべきであるとする。例えば外交文書を50年後に公開するのはこの概念の基づくのだろう。

双方の概念はそれ単体では正しいが、具体的な施策の段階ではお互いに矛盾しうる。これに関して興味深い指摘があった。朝日新聞の論壇時評において東浩紀氏によると「公開すべきものと公開すべきでないものの境界の正当性が疑われている」という。今までは「分析は政治家や官僚や選ばれたメディア関係者にゆだねるほかなかった」が、「ネットにはテレビや新聞のような量的制約がないため、巨大な一次情報の塊への未加工アクセスがだれにでも可能」になったのだ。

技術発展によって限界を突破した報道の自由が、国家安全保障に食ってかかる構図が見えてくる。どこかで線を引かなければ混乱に陥るが、それはどこなのか。東氏は最後に「知らせるべきではない世界があるのはいいとして、ではその範囲をだれが決めるのか。国家か市民か。そして根拠はなにか。」と述べる。今回のウィキリークス騒動は、二つの概念がぶつかったことの象徴として、人々が一人一人そのあるべき境界を考えるきっかけになるのかもしれない。



≪参考文献≫
http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-11952817
http://www.bbc.co.uk/news/11932041
http://www.voanews.com/english/news/Biden-US-Senators-Will-Pass-START-Treaty-112153874.html
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http://www.voanews.com/english/news/WikiLeaks-Poses-Legal-Challenges-for-US-Prosecutors-112180424.html
http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2010-12/16/c_13651525.htm
http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2010-12/19/c_13655390.htm
http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2010-12/10/c_13643418.htm
http://www.economist.com/node/17730546?story_id=17730546&CFID=151761700&CFTOKEN=85868686
http://www.economist.com/node/17674107?story_id=17674107&CFID=151761700&CFTOKEN=85868686
http://www.economist.com/node/17674089?story_id=17674089&CFID=151761700&CFTOKEN=85868686
http://www.economist.com/node/17677820?story_id=17677820&CFID=151761700&CFTOKEN=85868686
http://en.wikipedia.org/wiki/WikiLeaks#Support
http://en.wikipedia.org/wiki/Espionage_Act_of_1917
http://www.afpbb.com/article/politics/2778573/6567384
http://japan.internet.com/busnews/20101214/12.html
http://www.minousoft.com/2010/12/shield-act-obviously-anti-wikileaks-but-is-there-a-motive-behind-this/
朝日新聞12月23日朝刊23p