「こんにちは、あの、日本語わかりますか」

「こんにちは。わかりますよ」

良かった、言葉は通じるようだ。

「あの、不思議な場所ですね。ここは。火が浮いてる」

火の玉を指差す。

「それは人の魂ですよ」

「なるほど。それはつまり、ここは死後の世界ということですかね」

「そうなりますね」

「なるほど」

どうしたものかとその場で空を見上げる。

気になった。

「あの、ここって天国ですか」

「いいえ地獄ですよ。まぁ、死後の世界では、裁判城って言います」

「ああ、なるほど。…ということは、私は何か悪いことでもしたんですかね」

「あぁ、したのかもしれないですね」

「ところで、貴方の名前は?」

「…」

「あ、私は名前が無いので。色んな名前で呼ばれました。好きに呼んでください」

「わかりました、じゃあ名前が無いので、ナナシさんとお呼びしますね」

「はい。そちらのお名前は」

「私も名前はないんですよ。ここで案内をしてるだけなんです。案内人と言えばいいでしょうか」

「なるほど。では案内人さんと呼びますね」

「ええ」

ある程度は掴めたと思われる。ここは地獄で、裁判とやらが行われる。きっと人生の罪と善行を天秤で推し量るんだろう。そして私は無名と言ったが、実は名前はちゃんとある。しかしとても不恰好な名前なので、ないということにしたのだ。これから裁判があるようだが、こんな嘘をついても良かったのだろうか。今ごろ不安が込み上げる。

言っておくか。

「あの」

「さあ、そろそろ順番がきますね。あちらの門をくぐってそのまままっすぐ行かれたら良いですよ」

「どうも」

どうやら俺は地獄行きが決まりそうだ。

向かった先には男性が3人、女性が2人横に並んで私を見ていた。私は当たり障りのなさそうな場所を選んで座る。

「被告。真ん中の椅子に座ってください」

「あ、はい」

これは置いていったほうがいいか。

「では被告。貴方の人生結果を言い渡します。貴方はこれと言った罪を犯さず、人生をほぼ、徳を積みながら歩んでこられました。よって被告は天国へと向かっていただきたいのですが、貴方のような方は特殊な立場で、常に刀を持ち歩く用心深さや、人との関わりをあまり深く持とうとはしない警戒心、生涯において無欲で生きて来られたと言うのは、先程の通り特殊な例です。よければ、もう一度人生を謳歌してみませんか。貴方ならその権利があると思うのです」

「あれは持ってって」

「いいですよ。しかし人生設計の都合上、貴方が生まれる先が特異な場所になりますので、貴方の刀がもしかすると、最初は手元にないかもしれません。しかし、数日以内には貴方の手元に来ます」

「なるほど。じゃあ心配要らないですね。好きにしてください」

「では、そうさせていただきます」

そうして私は転生した。そう。女性になったのだ。

女性になって十数年が経ったと思われる。年は数えてないが、きっと十代後半くらいだろう。転生場所はこのボロ屋で、飲食店のようだ。私は看板娘として使われている。容姿が、前回の人生よりも優れている。そして肝心の刀はちゃんと手元にある。私自身この刀が何の刀なのか知らないが、前世で、家の奥にしまってあって、それが私のお気に入りだったのだ。

「いらっしゃいませー。美味しいですよー、きっと美味しいですよー」

頼りないほんわかした声が響く。私の声だと言うのはよくわかっているが、やはり難しい心境。

そして、私には友達ができた。

「頑張ってるね白玉」

「黒子ですけどね、結構日焼けしにくいみたいで」

「そうだね。おまえは肌がいつまでも白い」

「そうですね、寄ってきますか」

「いや、今日は仕事なんだ」

「あらそうですか、じゃあ、頑張ってください。あ、また今度手合わせお願いしますよ」

「はは、おまえの相手は疲れるんだが」

「貴方くらいじゃないと楽しくなれないんです」

「仕方ないなぁ」

「やった」

たわいもない話である。私は剣を避けるのが楽しみになっている。女性の体ではあるが、柔軟に動けるおかげで不思議な動きがしやすい。故に相手に行動を読まれにくくなり、私は避けやすいが相手は当てにくいと言う風になる。私は避けるのが楽しくて、よく相手をしてもらう。彼はイスルと言う。ここでは剣豪らしい。昔は国で二番目に腕があったそうだ。よく、刀を使って欲しいと言われる。私は嫌だと拒むが。

仕事を終えてすぐにイスルの元へ向かった。彼はすでに弟子に教育をしていた。

「イスル!やろう」

「ああ」

弟子達が私をみて興奮してる。よく興奮するなとちょっと羨ましい。私も誰かの捌きを見て興奮したい。

今日もイスルの腕は鋭く、紙一重で躱す快感が段々と大きく感じる。成長してるんだなぁと私は感心した。ついでに弟子の刀もまとめて相手した。私はこの人生で、とても鋭い感性を身につけているようだ。周りの音が勝手に頭の中で整理される。見えないところも感覚的に視ることができる。私からしても超人だ。この体はとてもいい。