依頼人(8)幸せを決めるのは | 小説家・井越歩夢は「書く」「語る」=IGOSHI/WALKER's THIS IS ME=

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小説家・井越歩夢(IGOSHI・WALKER)

ライトノベル作家・小説家・AI生成イラスト・AI生成文書技師

そんなこの私の短編小説と、日々つらつらと思うことを思うまま徒然なるままに何か何かを「書く」「語る」しています。

黄泉野カレンは書く語る
依頼人(8)幸せを決めるのは

 

そういえば、昔こんな歌があったな。今日の依頼人はそんなことを私に思い出させてくれた。

 

幸せってなんだっけ。

 

私は黄泉野カレン。このG県N市駅前でヨミノカウンセリング室を営んでいる心理カウンセラーだ。

私自身それを否定するのだが、私は「心霊カウンセラー」と言われているらしい。

まあしかたないとは思う。

私の依頼人は「昼の生者」と「夜の死者」。この世ならざる者も私の依頼人なのだからそう言われても仕方はないと思っている。

だがしかし、いつものようにこれは大事なことだからはっきりと言わせてもらいたい。

私は「霊能者」ではない。心理カウンセラーであると。

 

夏も終盤を迎えてはいるのだが、まあ残暑は厳しい8月末の木曜18時。私は依頼人の男性と向かい合っていた。

 

その依頼人は35歳男性。会社員。営業職で成績は上の下と彼は自己評価していた。仕事帰りらしく、白シャツにグレーのスラックス、そしてきれいに整えられた髪。人は中身が大事と言う言葉はもちろんだが、第一印象の大半多くは視覚から得られる情報で決まる。その割合は93%。話はたった7%だ。

そういう意味では、私は彼の第一印象を営業職として合格と見ている。

しかし、そんな彼の見た目印象の中で一つだけ引っかかるものがあった。

彼の見た目からも、そして雰囲気からも、何か私の所に来て話すような深い悩みがあるようには感じ取れないのだ。

そんな彼がどんな話を私にするのだろう。私は少しの興味を持って彼の話に耳を傾けた。

 

彼の話は一言でまとめるとこうだ。

 

「一人でいることは不幸なのか。」

 

成績もまあまあ優秀で見た目も悪くない。だが、お付き合いをしている相手は今はいなく、仕事終わりは読書、休日は趣味であるソロキャンプを楽しみにしていてそれが楽しすぎて、彼女が欲しいという気持ちも全くないという。

そんな彼に対し、職場の仲間、上司、部下たちからここ最近になってよく言われることが、「一人でいて楽しいのか」だ。

彼の趣味であるソロキャンプについてもどうして一人なの?みんなで一緒に行った方が楽しいくない?さみしくないの?と言う声がよくあるという。

ひとりはさみしい、ぼっちという言葉に対する負のイメージ。しかし彼はそれが楽しい。それを周囲からは「不幸」という目で見ているように彼は感じているということだった。

 

そんな話をとてもよく伝わりやすいいい声と、会話の組み立て方で、彼は私に話をしてくれた。

 

「一人でいることは、そんなに寂しい事なのでしょうか。」

 

「なるほど、確かに一人でいることを寂しいのじゃないかとは、そう多数の方が考えるでしょう。」

 

「やっぱり、そうですか。」

 

「はい、でもそれは多数派の意見であって正解ではありません。そもそも正解はありませんよ。」

 

私はそう言って「ほっ」と一つ息を吐き、話をつづけた。

 

「楽しい事は人それぞれです。貴方が一人の趣味を楽しいと感じているのでしたらそれが貴方の正解であり、貴方の幸せでしょう。なので、周りの話のほとんどは聞き流せばいいと思いますよ。」

 

「ほとんど?全部じゃなくてほとんどですか?」

 

「はい、全部じゃなくてほとんどです。時々あるのですよ。様々な話の中に潜んでいる、有益な一言が。なので、全部聞き流すのはもったいないです。必要と思うアイデアは拾わないともったいないですよ。ただ、注意していただきたいのはその相手から何度も有益な時間を得られなかったときは、その相手からは離れましょう。貴方の時間を大切にするために。」

 

「なるほど、そうですね。確かに。」

 

彼は、私のその話を納得してくれたようだ。時に一人を好む人の中には、人の話を全く聞かないという姿勢を貫く者もいる。それはそれでも構わない。それでいいとその人自身が思っているのならば。だが、会話の中に潜み転がっている小さなアイデアの種。それが大きな変化の切っ掛けになることもある。

まあ、私自身も正直を言うと「流派ソロ活動」という気質だ。だがそれを寂しいとも不幸とも感じたことはない。

 

「周りが言うように、一人でいるのは不幸という事はないのですね。」

 

「当然です。貴方が不幸か幸せかを決めるのは、他人ではありません。貴方の幸せを決めるのは、貴方自身なのですから。」

 

そう私は、強くはっきりとした口調で彼に伝えた。そして、これで彼の相談は、ほとんど終わり、そのあとは時間まで「ソロキャンプ」というものについて、私は彼にその魅力を聞くことになった。

 

 

20時30分。今夜は夜の依頼人の予約がある。それまでの休憩のため私は一度カウンセリング室を締めて、マンション上階の部屋に戻っていた。

ベランダに出て、煙草に、アニスに火を点けまずはホッと一息をつき、そして今日の昼間の仕事について振り返る。いつの間にかこれが、私の仕事終わりの「お決まりの所作」になっていた。

 

今日の昼を振り返った時、最初に思い浮かんだ言葉。それは「幸せってなんだっけ。」という古い歌の歌詞だった。

私の結論を言うと、幸せとは・・・そうだ、幸せとは私が幸せであると感じていれば幸せなのだ。それは他人に決めてもらうようなことではない。そして誰にでもそれは言える事なのではなかろうか。

 

まあまあ、人の話に対して聞く耳を持たないというわけではない。時にそんな話の中に有益なアイデアが潜んでいることもあるのだから。

 

今日の18時の依頼人、あの男性は一人時間を大切にし、一人で過ごすことに意義を見出し、それを楽しんでいた。

そして、彼から聞いた「ソロキャンプ」というものに、私は何か興味を引かれていることを感じていた。

どうやら私は、彼との面談から一つの有益なアイデアの種を見つけ拾い上げたようだ。

 

幸せを決めるのは、貴方です。

他人に決めてもらう者ではありません。

 

さて、今夜の夜の依頼人の時間まで、夕食と休憩に、そうだYoutubeでソロキャンプの動画をいろいろ見てみよう。

 

 

 

ヨミノカウンセリング室

G県N市駅前

13時〜20時(メールにて要予約)

定休日 毎週月曜火曜

カウンセラー 黄泉野カレン

 


 

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