博は、まだ学生だった。
その日彼は、神戸の友達の下宿に泊まりに行っていた。
朝早くに電話がかかってきた。
幼馴染の女の子が夕べ博を訪ねて来たという。
女人禁制の男子寮に来て泊まったから、早く帰ってくるように言われた。
博は、驚いて心臓が止まりそうだった。
信じられなかったし、うれしかった。
何があったんだろうと不安でもあった。
急ぎ寮に帰ったら、大好きな幼馴染の彼女は、
ミュージシャンの男を東京から連れて彼を頼って来ていた。
駆け落ちしていた。
女人禁制の寮に男を連れて泊まっていたんだ。
寮は始まって以来の出来事だった。
彼女はお金も借りたいと言った。
博のありったけの現金3万円くらいを彼女に渡し、京都駅まで見送った。
博は、その時のその男の姿がまぶたに焼き付いている。
黒いギターケースを持ち薄い色のサングラスをかけていた。
博は、口もきかなかった。
悔しくてたまらなかった。
彼のうぶな心は憎しみで震えた。

でも、彼は、彼女を好きだった。

その後その男とすぐに彼女は別れた。
その男は今でもどこかで歌っているのだろう。
そして、不思議に女の子にもてているのだろう。

博は、後日彼女の両親に連れ出され、お金を返され、彼女の将来を相談された。
博は、ヤケ酒を浴びるほど飲んで
胃に穴が開いて入院した。

彼女は、また違う男と夜のドライブでもしているのだろう。
博は、彼女にずいぶん会っていない。
けれど、その時の彼女をを守りたいという気持ちを
今でも思い出している。


$記憶のスケッチ~日々の水彩