海の街、アゼン。
ウミネコが飛来して漁獲が盛んな小さな町。
田舎に住んで代わり映えのない毎日に人々は退屈だと言うけど、
私の全盲より沢山の経験が見える筈。
私は家族の顔さえ見えない。
父は漁師だったが海賊に襲われて亡くなった。
幼い頃は、いつも顔をペタペタ触って表情を確認する。
でももう父親の顔は触れない。
全盲だから学校ではのろまとからかわれ、大切な杖を取られてしまった。
とにかく楽しくなかった。
苦しい時、みんなが綺麗だと言う「青い」海に飛び込んで死にたいと思った。
母親が病気になって亡くなった時、
私は全盲の売春婦になった。
定職は就けなくてもある程度で稼ぐ事はできる。
純粋な女性なら眉を顰めるかも知れないけど・・・。
杖を持って階段を降りる私を横切って子供達がはしゃいで上を駆けてゆく。
行き先は建物に囲まれた夕焼けの見える中庭。
静かな海の波止場で海釣りをする老人。
「ブルーチーズ」という店名の看板を掲げるバーは今日も盛況だ。
海賊の溜まり場で、普段、市民は来ない。
漁師や市民はもう少し町の近くにあるバーへ通う。
このテリトリーにはあまり近付かない。
海賊は荒くれ者が多く、ジョッキの中に煙草を入れて殴り合いの喧嘩する事もある。
しかし、バーの店員は仲介しない。
仲介すると火に油をそそぐからだ。
「会いたかったよ。レイナ。」
「ジン、久しぶり。お金は?」
「気が早いなァ。」
私はここでは有名で「売春のレイナ」と名乗っている。
「俺も誘いたい。いつもジンばっかり相手して。」
「お前は30年早い。」
「さて、2階に行こうぜ?」
「じゃあね。バイバイ。」
「良いなぁ。金はあってもあのジンがずっとついてちゃ手も足も出ねえ。」
お酒も飲んでほろ酔い気分の私は波止場の倉庫街を歩くと背後から誰かに襲われた。
「んん!!」
口を塞がれ、身動きが取れない。手に掴んでた杖を失ってしまった。
私の体を引きずり、何やら倉庫の中に監禁されてしまった。
そこは静かな場所で耳元から啜り泣きが聞こえる。
(子供?)
真横からライターの着火する音がした。
私には見えないが煙草の煙が充満している。
「やあ、ユナ・・・元気か?」
縄で拘束されて思う様に行かない。
「その声、ダート・・・。」
私が子供の時、母の形見の杖を質屋に売った不良のダート。
「子供を人身売買してるの!?」
「ああ、小遣い稼ぎだよ。」
「こんな事して、許される訳がない!!」
「ユナだって小遣い稼ぎしてるだろ?男に股開いて。」
「そんな事、子供の前で言わないでよ。」
一度、売春を断った腹いせか。その後、音沙汰もないから危機感がなかったけど。
「お前、この田舎が退屈だから出ていきたいって言ってたよな。良い出先があるんだよ。」
近くに煙が漂う。多分、しゃがんで煙草を吸っているのだろう。私は煙に咳き込んだ。
「胸に金あるだろ?火消しにくれよ。」
ダートは安物のドレスの胸に挟んだ紙幣を引っ張り出し、煙草を使い、紙幣を燃やす。
「燃えたなァ。良くこんなはした金で股開けんなァ?」
「そのはした金をあげて私と寝ようとしたじゃない?」
ダートはユナの髪の毛を掴んで、引きずり倒した。蹴られたお腹が痛い。
「ごほごほッ。」
「3時頃に出発する。売春婦のお前の行先は地獄行きだ。」
*******
「みんな・・・大丈夫?」
安心したのか泣いてた子供達がユナを見る。
「ごめん。アイツがこんな事に巻き込んで。」
「ダートって男は知り合いなの?」
「学校のクラスメート。昔から私を虐めた張本人。」
「そっか・・・。」
「逃げる事できないかな?」
「無理だよ。あのおじさん、あそこの血の様な色をした茶色いの床を見せて「騒ぐとあの床みたいに血だまりになるぞ?」って脅したんだ。」
見えないけど、きっと床にある「染み」は本物なんだろう。
ダートは海賊だ。殺さない訳ない。
「出港の時間だ。」
蒸気商船上の床には途中に階段があり、床の下には地下牢がある。
檻の蓋を開けて、子供達を階段へと押しやり、格子の蓋を閉める。
檻の上には猫が歩き、人間をちらっと見るが私達を素通りする。(猫がいるのはネズミ対策)
檻の上には更に積み荷を置く音が聞こえ、ここが厳重な檻だと子供達でさえ悟ってしまった。当然、檻の中にはトイレもなく悪環境だ。(少しだけ光が届く)
ここから長い期間の間を経て大陸に寄港する。
「おい、この商船でお漏らしたら死刑だからな?」
「臭くて樽の水を掛ける奴もいるけど、水は貴重だからな。トイレはちゃんと監視の奴に言えよ?一人すつだ。分かったな?」
・・・昔、建物が囲まれてる中庭の椅子で新聞を読んでいた老人に聞かされたが、人質奴隷は大抵、餓死で死ぬ。牢屋に入れられ、嵐で荒波の海水が檻の牢屋まで掛かり、中で溺れて死んだ女子供もいる。
死体は海に放り投げられ、親の手元にはほとんど帰って来ない。
広大な海の上では誰も助けに来ない。
絶望的だ。
*********
早朝、霧深い海の中で出現した大型海賊船があった。
「おい、ありゃゴールデン号じゃねえか?」
「髑髏旗の海賊か?」
「今夜、夜襲するかも知れねぇからな。気ぃ付けろよ。」
国の領主達に警戒されてる大海賊「ゴールデン号。」
あらゆる犯罪に手を染め、無害な商船がいくつも沈没してる。
喧嘩売る相手じゃない。
「大海賊が居るって事はあいつら怖れて何処かの島で船を係留する筈。その隙にこの牢屋を壊せないかな?」
一際、大人びた声の少年が私に向かって相談する。
「そうね。でも上手く行くかな・・・。」
ドオンという号砲が聞こえた。
「敵襲だ!!」
「えっゴールデン号が撃ってるの?」
「らしいね。何か楽しくなってきちゃった。」
こんな状況なのに笑う子供が居るのが不思議だが、これは天の助けだ。
ドオン。
沈まない程度に撃って接近戦に持ち込んで相手の船に橋桁を掛ける。
綱渡りして敵の陣営に突入して、勝敗は1時間もなかった。
「大丈夫?」
死体の腰から牢屋の鍵を拾ってきた青年が居た。檻の蓋に載せてある積み荷を一人でどかした。
しゃがんだ青年は、年齢が若く、茶髪の毛が天然で跳ねている。
「ごめんな。人身売買する位、商売が下手な海賊も居るんでね。」
顔が分からないが、存在感のある声に子供や私はほっとした。
「助かった~。」
みんな、お互い抱き合って無事であった事を素直に嬉しがる。
「そこの坊主の一人だけ牢屋に入れとけ。」
「ハッ。その言い方、ないんじゃねえの?兄貴?」
「えっご兄弟?」
「勝手にどっかふらついてるかなっと思ったら人身売買されたなんて海賊として恥だな。」
「お前の知り合いの姉ちゃん助けたのに弟に対して随分な言い方だな。」
「檻に入れられてるお前の何処が・・・ユナ!?」
「えっ誰なの?」
「故郷のアゼンに帰ってきたんだよ。ユナ。」
「えっ?」
「あ~顔が分からないから覚えてないか?」
「残念だな。兄貴。」
「お姉ちゃん、この落ちこぼれは俺の兄貴でエディだよ。」
「えっエド?」
「一言多い。俺は落ちこぼれてなんかいない。」
「この売春婦のお姉ちゃんに告白出来なかった癖に?」
「売春言うな。このクソガキ・・・。」
「エドなの?」
「良く覚えてくれたな、ユナ。ただいま。」
愛想笑いの一切ない屈託な笑顔で幼馴染のエディは一時、故郷に帰っていたのだ。
お互い潮風に髪を撫でられながら喋り合う。
「で、俺はユナの家庭の詳細知らなかったけど、そんな事になっていたんだ。」
若い頃に田舎を飛び出し、いつの間にか海賊になっていたエディは大人びていて声もしっかりしていた。
「うん。」
「ごめんな?俺は何も知らなくて。」
幼馴染から頭を撫でられ、くしゃくしゃになる。
「引っ越ししたんだと思っていた。」
「そっか。そうだよな、俺が海賊の船員になるだなんて言ってなかったし・・・。」
「ううん、私には海賊になりたいなんて言ってたじゃない?」
「そうだっけ?」
「うん。海賊の姿が格好良いって言ってたもん。」
「そっか。」
「本当になったんだね、おめでとう。」
「でも遅かったか。」
「何で?」
「だって・・・。」
はだけた胸元のドレスを見て渋る。黙るエドを感じ取って私は言い返す。
「私の不幸は良いの。それに売春婦は嫌じゃないよ。」
「嫌じゃない?」
寧ろ、戸惑いを隠せない幼馴染に私は落ち込んだ。
「いや、俺も売春は否定してないよ。その格好好きだし。ただそこまで堕ちる生活をしてたなんてどうしても考えたくなくて・・・。」
「ふふ。エディはそのままの性格なんだね。」
離れていても何処となく自分の女だと勝手に思っていた幼馴染はその垢抜けた彼女にエディはすねてしまった。
「やっぱり全盲じゃ生活は厳しいな。」
「まあ、確かに定職には就けないね。」
停留先の列島で一晩過ごした。
船長のルイから一定の理解を得て、全盲でも同行出来る様になったが、ただし、ルイ以外売春婦のユナに手を出すのは禁止になった。それは勿論、幼馴染のエディも掟には従わないといけない。
「ねえ、私の何処が好き?」
「だって弟さんが。」
「ああ・・・顔、顔に触れてくる所だよ。」
全盲の人間は通常接近して表情を手の平で読み取る癖がある。
「その単純な接触で好きになったの?」
「思春期だし、女に接近されて好きにならない男はいないだろ?」
「ふふ。可愛いね。」
エドは恥ずかしくなって困る。
「俺に興味なかった訳?」
「前はさらさら。今の方があるよ。だって男女関係になれるでしょ?」
「ふぅ・・・俺だけか。」
「今の大人っぽい声は見えない私でも好みの声。」
「ルイの存在がなければこうやってキス出来るのに。」
「んン。」
潮風が流れる中でお互いの唇を重ね合い、星空の下で抱き合う。
「星は見えなくても手があれば相手を感じる小さな幸せだけで私は充分。」
「ねえ、内緒でこっそりセックスやる?」
「他の海賊さんには内緒ね。」
 
=完=
 

雑誌「anan」読んでない方は死にキュンを味わって下さい。

 

モンシロチョウが蜜を吸いに花を渡る。
緑の庭が透けて見える純白カーテン。
出掛ける時は黒い服装だが、家では反対に白い服を着てる。
私が白いワンピースに返り血を浴びて帰ってきた時、じっと見つめながら頭を撫でた。
陽光に当たる銀色の睫毛。
青の洞窟の様な瞳。
相変わらず、彼の表情が読み取れない。
それでも私を触る手は人懐っこい様な気がする。
「シャワーを浴びなさい。」
シャワーを浴びる度、髪は濡れ、肌につく飛沫が跳ね返る。
洗い流された返り血は、排水溝に血潮が渦巻いて闇へと吸い込む。
アリスが何気なくぼうっとしてると、
急に背後から口を塞がれ息が出来ずに苦しんだ。
「・・・血がもったいない。」
シアナの声が聞こえる。
抵抗するとシアナはすんなりと手を離した。
濡れたままの状態の私の背中をシアナに舐められ、背筋が弛緩する。
「血は洗い流したよ。」
シアナは、シャワーの蛇口をひねり、流れる加減を弱める。
「ねえ、この血の香り、男じゃない?変な体臭もする。」
「他の香りもするけど、男とセックスした?」
「抵抗した。」
「抵抗した癖に逝ったの?」
「そんな事・・・。」
「セックスした後、ちゃんと殺した?」
「女性を食べなさいって言ったよね。君は用心しないと逆に男にやられるから。」
顎を掴まれ、目線を合わせる。侮蔑した視線が痛い。
「俺以外しない事。」
家族で過ごすには3つの約束がある。1つは吸血する時は同性。2つ目は人間の男とセックスしない事。3つ目は自分とセックスする事。
「シアナは他の女性としてるじゃない?」
不安な事を吐露したが解決には何も至らない。
「じゃあ、死ねば?」
死ねと挑発して嘲笑する。
「私は好きでセックスしてる訳じゃない。」
「俺のセックスの回数より多くない?」
彼の女性とのセックスの回数かと思ったが、そう言えば、シアナと最近セックスしてない。
「それは・・・。」
「俺が遊んでる回数より、君とセックスした回数より実際多いよね?」
その突き刺さる視線にアリスは脅えた。
「嘘吐き。」
「待って。」
シアナと出会ったのはここ最近。だからじゃないけど、その言われようには流石に堪えた。
「男性に襲われたのは3回目だけど、シアナとセックスしたのは4回じゃない?」
「言わなかったけど、君は父親に数回強要があった筈だ。俺は吸血鬼だから匂いで分かるんだよ?」
「えっ?」
そんな事はないと瞠目した。その反応にシアナは顎に手を添えた。
「覚えてない?記憶喪失?」
「・・・・。」
「僕は定期で楽団をやってるけど、たまに貴女の香りに父親の体臭が纏わり付いてる時があった。それもお尻からね。」
「そんな・・・。」
「記憶が吹っ飛ぶ位、気持ち良かったって事?」
「冗談。今度、人間の男としない様に僕が食事を見張らないといけないよね。君はお腹空くと判断力が低下して見境なくなるから。」
バスタオルを持ってきて私の体を包む。
「エッチしたくなったからベットへ来て。」
私をお姫様のように抱きかかえ、寝室へ行く。
そんなムードもないのにアリスをベットの上に乗せる。知らない話が途切れてしまって不満のまま、シアナはバスローブの紐を解く。
「だめって・・・意味判らない。」
「したいの?良いでしょ?」
また楽団のシアナの様な優しい話し方をする。さっきは「俺」とか言ってた癖に。
「少しは私も気持ち考えてよ。」
命令しても聞かない吸血鬼に苛立つ。
「俺の命令、無視しただろ?」
「それはお腹空いて。」
「お腹空いても勝手に出歩かない。1人エッチでもして気を紛らわせて。」
「意味判んない。」
アリスの股の少し開き、蜜の垂れる花弁を触る。
「んっやぁ・・・シアナッ。」
直ぐに太股を抱え、頭を屈んでアリスの悶える秘部へと舌を這わしてくる。
「んぁ・・はあぁッ。」
「ねえ、起きてちゃんと骨盤立てて、そうじゃないともっと逝けないよ。」
寝かせたのは自分の癖にアリスはシアナを足で蹴る。
「蹴るか?普通・・・。」
睨み付けて
「足が当たっただけじゃないの?」
「お嬢様はいつも大変ですね。俺の命令を聞くのに。」
皮肉たっぷりに笑う。私は嫌な笑いに胸がざわついた。
そしてまた舌を出して、私の媚芯を舐める。たまに歯を立て、雌芯を炎症させて舌先を転がす。
「んひゃあァ!!」
嬌声をあげ、私は震えた。シアナは出過ぎた淫液は吸ってわざと音を立てる。
「んっくぅんン。」
堪えるけど、声が漏れて仕方ない。
シアナは顔を上げず、ずっと執拗に舌遊びをする。私は何度も絶頂して痙攣してるのに。その痙攣を追う様に指で触ったり、舌で攻撃を止めない。
「あああっ。」
異常な快感に私の体は悲鳴をあげる。頭を振って困惑する。涙が出る程、呼吸も苦しい。
「じゃあ、俺の棹、入れようか?」
卑しく笑って、私の太股を持ち上げ、私の体を組み敷く。長くて太い棹を狭い蜜壺に押しやって嵌め込む。
「んン・・・。」
シアナの声。掘り起こす時に艶めいた声を出す。
「はあ・・・アリスのナカ、気持ち良い。」
私のくびれを持って体を揺らし繰り返しの挿入する。シアナは感じる自然のまま感じ、私と一緒に喘ぐ。
「んァ、アリス・・・。」
快楽を追って私の名前を呼ぶ。私もシアナと呼んで、お互いの刺激を深めた。
「シアナッ。」
シアナの肩を抱いて、彼の腰が激しくなる。シアナは私の耳の奥を舐めて、悲鳴をあげる。
そしてシアナは私の首筋を色香に反応して吸血した。
「いっやあぁぁっ!!」
そのまま二人で数分求め合い絶頂して朽ち果てた。
 
=完=
 
後記
シアナを動かすのに凄く悩みを感じた。15歳のアリスに興味なさそうだし、ベタベタさせるには180度キャラを変えるしか方法ないかな~って思い悩みました。何とかシアナっぽい感じで仕上がりました。大分、心の中が見えてきた様な気がします。傷付きやすい嫉妬の塊。露悪的な部分や変態なのは変わらずだけど、アリスは翻弄されっぱなしですね。こんなのが居たら先ずに逃げましょう。シアナは放し飼いしても一人で生きてけますが可愛い子にはゆっくりと獲物の様に近寄りますんで。
因みにアリスを抱える時、肩に引っ掛けようと思いましたが、お姫様だっこしました。以前、姉の子供を持ち上げようとした時、子供の抱き方が分からず、お姫様だっこした経験があります。後ろで姉と母親がクスクス笑って、チラっと見やりましたが、黙ってデパートを歩きました。
 
 

今日のスーパーの客の話だけど、
子供が自分の肩を使って父親の腕を押し跳ねてはしゃいでたんだよね。
で、飲料コーナーで親が子供に目隠しで遊んだり、それまでは良かったんだけど、父親の足先に子供が乗って密着したり、足先のバランスが悪いのか子供が手を親の腕に添えたりしてたんだけど、恋人なのかと疑ったのが、親が子供に顎クイしてる瞬間は私でも固まった。
えっ・・・この親子関係なんなの!?
子供は小学(高学年)もしくは中学生っぽいけど。
いや、まさか赤の他人な訳あるまいし、

ロリコンじゃなくショタコン?
昨今の親子関係でベタベタくっつくのってないよね。
普通、反抗期来るよね。

父親、嫌がるよね???
2人の会話の内容が分からないから何とも言えないけど、

ボーイズラブ的なエロイ親子に

見えてしまうのは私だけでしょうか・・・(;´Д`)?

 

扁桃腺の風邪で2週間経って薬で咳が収まりつつあるけど、まだ治りかけの咳が改善しない。
そのうえ、今日、朝起きると胸が苦しい。すぐ治ったけど。
不整脈・睡眠時無呼吸症候群のどれか?
最近、少しイビキ掻くと言われるからそれほど呼吸に重症性はない筈。
だとしたら不整脈かな。
以前、看護婦さんから若いのに肝臓が悪いと言われてその看護婦さんの「焦り」に珍しさを覚えたけど、もしかしたら肝炎(B型かC型の)の疑いがあると言われてる。
でも行く気がない。
面倒。
でもほっといたら悪くなって死ぬ。
良い薬があるからとネトゲの知人に聞いたから素直に聞くべきかな。
仮に肝炎だとしても訴訟の対象外なんだよね。
誕生日でアウト。
死亡したら訴訟で3600万円貰えるんだって。
それも対象外。
 
薄暗いカーテンと片付いてないベットで彼女は彼を見ながら寝転んでいた。
「ご注文の品、無いのでわざわざ買ってきましたよ。」
彼は私に覆いかぶさりながら体を寄せて、そっけない態度で、しかし、口に咥えてるのは紛れもない未使用のコンドーム。
その視線は冷笑していた。私はその唇に触れたいとぼうっと見ながら待っていた。
「お客様が嵌めてくれるんですよね?」
コンドームを指で持ち直しながら喋り掛けてくる。
その言葉にはうっとりして返答がなかった。
彼は再度、聞き直し。煽った言葉が跳ね返ってくる。
「コンドーム、ちょうだいは?」
「・・・ちょうだい・・・。」
「駄目・・・フェラしてからじゃないと注文は受け付けておりません。」
「お客様が俺の事聞かない限り、その様なご要望にはお答え出来ません。」
瞬間、彼女は唇を尖らしたが、ふふっと息の漏れた笑いで頷いた。
「良いよ。欲しがるならしてあげる。」
その甘ったるい声に彼の瞳は恍惚の眼差しに変わる。
体制を変えて、彼女は彼の股間に手をやった。彼は自分の前髪を梳きながら彼女の行動を見下ろしながら楽しんでる。
「舐めて。」
しっとりとした声で催促して笑う。
彼女は彼の勃起した棹を握り締め、マッサージする。
「んくっ。」
その後に口紅の付いた唇を目一杯開いて頬張る。
「はあ・・・。」
彼女の厄介な舌遊びに彼は聞いた事もない甘い吐息を漏らす。
快感がたまらないのか、はだけた服の腹筋が彼女のフェラの刺激によって艶めかしく蠢く。
「気持ち良い。」
亀頭を咥内で擦り、裏筋を舌で逆撫でする。先から精液がつうっと流れ、青臭いを放つ。
さざなみの様な快楽は研ぎ澄まされた雷の様な激しい快感に彼は思わず呼吸が乱れる。
余りにも酩酊の早さに彼の意識が飛びそうになった。
「逝くの早い。でもその顔、可愛い・・・。」
視界がぼやけた中、彼女は嘲笑していた。
そもそも新人の中でも彼より年上で異業種からやってきた従業員だ。彼より背は低いがかなりモデル並みで顔は朝ドラの女優、胸はグラビアアイドルと三拍子揃っていた。
その上、声が艶めいて何か重い荷物を持つと声が擦れるとエロい。
最初は気にしてなかったけど、荷物運びの倉庫では声が響く。
我慢を超えていたのはどっちなのか?
【・・・ねえ、コンドーム探してるんだけど、見つからないの?探してくれない?】
「採用された後の社内契約事項にはセクハラは禁止だって書いてなかったっけ?新人の女が契約違反するのってアリ?」
「誘いに乗った恋人だからアリなんじゃないの?」
「恋人、ね?」
「ふふ・・・もっと良いしよ?」
「じゃあ、跨ってみる?ん。ねえ・・・コンドームは?」
「買い忘れちゃった。」
 
 
=完=
 
「注文の彼」後書き。
会社の眼鏡クン想像して書いてたけど、続編であるベットシーンはジェシーが出てきたので振りほどいて眼鏡クンで書いた。
危ねぇ。アイドル巻き込む所だった。
いや、眼鏡クン知らされてないからどっちも危ない・・・。
ないしょの秘密(/・ω・)/
 
 
スーパーの倉庫から段ボールを持ち込んだ僕は食品売り場で中腰になりながら品出しをしてる。
背後からカゴの入ったカートの音が床を滑ってるのを僕はいつもの様に気にせずに棚の一番奥を見つめていた。
ふっと横から香水の匂いがして違和感を覚えた。その香りに見覚えがあったからだ。眼鏡の視界から髪が流れ落ちて揺れ動くのが分かった。
「・・・ねえ、コンドーム探してるんだけど、見つからないの?探してくれない?」
ここ最近会話すらしてない新人の従業員がスーパーのお客側として商品の要望を聞いてきた。
「えっと・・・。」
思わぬ注文に戸惑いを隠せなかった。そんな事を言うタイプじゃない彼女の表情は艶めいていて何処か妖艶だった。
心拍が高鳴る自分の気配に気付いたが、平静を装い対応した。
「・・・ないですよ。」
「そう、残念ね。」
にっこりと笑い、買い物を続ける。
その背後に視線を泳がせながら僕は品出しを再開した。
しかし、いつものペースより緩慢になった。
それは今、彼女の唇から性的な言葉を反芻してる自分が居るからだ。
体温が上がり、仕事にならない。
衣服からシットリと脇汗が出る。
少し頭を振って払って、小さな悪態を吐く。
棚の向こう側に曲がった彼女を無意識に僕は思い浮かべていた。
 
 
=完=
 

読者に対して「眠れない夜は、俺の事、考えてモフモフして!」って言ってましたが、眠れない夜は、撫でてあげるよ?じゃないからね。
モフモフって言葉、自由に考える余地を与えてる。
余白のエロス。
表面上、モフモフって言ってるけど、樹の場合、モソモソに近いんじゃ。
上澄みだけの掬い方ではなく、地下の泉が染み出しても問題ないよって言われてる気がします。
北斗が樹を語る時に危険なエロスと言った様に妄想を解禁したら危険な媚薬を孕んでいて加速させるんじゃないかって。
モフモフな危険で妄想すると「自分で能動的に想像して」樹から急かされている感じがして、妄想の中で意外に素直に喘がせる言葉の技を使ってるのではないでしょうか?

メンバーが色気の話をした時、かなりいじられていましたが、ジェシーから「走れエロス、だね。」と言われてるので、間違いなく、ジローラモの様な種馬的な存在なんでしょう。

最後に樹は「親が裕福な17歳ですw」って言ってますが、何も知らないあどけない子ですとか、育ちの良い子ですって嘯いてるよね・・・。

 

怖い子w

 
 


 

吸血鬼を書く上で退廃と甘美と後味の悪さって必要なんです。
血に飢えるとしても現実感がなければ成立しない。
主人公アリスは繊細で壊れやすく猜疑心の塊にする為にも父親に傲慢さと道楽が必要でした。
シアナにしたのはシアバターの香りから命名しました。
彼の青の洞窟の瞳や銀髪も吸血鬼を想像しやすい為に分かりやすい色にしました。
いつも思うんですが、吸血鬼は女性が月経の時、どうするんだろう?と思った事があるんですけど、考えによっては変態に終わるので敢えて漫画では描かないんだろうと今でも思ってます。
シアナは変態です。冷淡で露悪的。長く生きてるので人間が嫌いです。残忍性を好み、快楽を好み、支配を好みます。
神様よりニーチェを好みます。ニーチェを敬愛した作曲もします。
音楽は好きです。何も考えずに居られるから。
女が好きかと言えば、答えはNO。
軽蔑の鑑の中で愛を易々と語れる。
侮蔑の鑑の中で傲慢な自分自身を愛してます。
浮気して「じゃあ死ねば?」って多分言えるタイプです。
以前、福岡の番組の街頭インタヴューで彼氏が彼女の浮気を問いただしたらメールで「じゃあ死ねよ」って返されたと。
怖くてすぐ別れを告げる事は出来なかったと言ってました。
愛は重いって言われがちですが、軽いのもどうかと思います。

 

15歳のアリスは、親の言い付けで社交界のパーティーに参加したが、会話などアリスにとっては窮屈なものだった。
皿の上に乗った焦げた肉。嫌いなピクルスやはちみつの漬いたキャビア、乾燥したベーコンとフォアグラなんていつもの食卓に並ぶものを少しアレンジしただけの不味い食事にアリスは滅入った。
演奏だけじゃなく、向こうで笑う親の背中など更に遠く感じる。
屋敷に居る時も遠くもはや他人行儀な接し方しか知らない。
父親は慣れた場所で意気揚々と喋る。
しかし、アリスは小さなケーキをフォークで突いてしまえば、直ぐにこの楽しみも終わる。
「はァ、退屈だわ・・・。」
オーケストラの囁きは天使の聖歌が聴こえる。
作曲家は、突然死で人気の末にこの世を去った。
戦争のない平和な時代、放漫な時代、けれどそんな時代が本当に幸せか。平和とは言え、犯罪は堪えない。
人々は先祖の墓を献花せず、場所が遠いの一点張りで訪れもしない。それよりは有名な庭師を雇い、屋敷の庭園の花を豪華にして競って自慢する。
「・・・退屈。」
食べるのも億劫。
後ろから「婚約者だ」という耳障りな言葉を父の口から出た。
再婚して浮かれる父など、私の父親じゃない。
スパークリングワインより濃度の高い赤ワインを飲み干し、私は汚く囁きながら罵った。
「世界なんか消えてしまえば良いのに。」
「そんな事を口で言うなんてお嬢様らしくない。」
長時間の演奏を交替した青年が仕事終わりにスパークリングワインを手にしていた。楽団の美男子と持て囃されるシアナだ。
柔らかな銀髪と端正な顔立ち、瞳は青い洞窟の様だと言われる。
呟きが口から漏れた事に自分自身も驚いた。
「寛大にも我が楽団を屋敷の演奏を取り入れてくれた君のお父様に感謝するよ。」
「・・・社交辞令ね。大した演奏でもないのに。」
「偽りない演奏がお気に召さない?それは貴女の心が薄汚く欲求不満だからだよ。僕達、楽団員はちゃんと懸命に演奏してる。」
その態度に私はカッとなり、給仕が周りの客の為に持ち歩いてきた白ワインを青年の顔に投げ付けた。
時間差でパリンという音が室内に響いた。
「アリス様!!!」
「ふん。」
給仕が驚いて慌てた。シアナの衣装は濡れて困っていた。
「・・・赤ワインじゃなくて良かったけど・・・髪から豪快にワインをぶっ掛けられるなんて初めてだよ。」
「申し訳ございませんッ。シアナ楽団長。早急にお手拭きをッ。」
「私はオケの演奏が心あらずと言った筈よ。私に対して侮辱する気?」
言っても居ない事を畳みかけて言い放った。
「アリス!!」
父親にパシンと平手打ちを喰らった。
「シアナ楽団長は、来月からアリスのピアノ講師にされるお方だぞ!!」
「ッ・・・。」
アリスの周りは味方ではなかった。
それより周囲の軽蔑した眼差しが私の体を突き刺さした。
「本当に済まない。」
父親が申し訳なさそうにする。
「良いですよ。しかし、これでは家に帰れません。少しシャワーをお借りしても?」
父はシアナに同意した。
私は蒼白し、人々の集まる社交界から逃げた。
*******
「アリス!出て来なさい。アリス!!」
父は応接間のソファーに居る楽団長に事情を説明した。
「扉を閉めて謝罪に来ない。知らないの一点張り・・・全く愚かな娘で済まない。」
「いいえ。」
「原因は父の私です。離婚したばかりなのに好きな女性を作ったから・・・。」
「そうですか・・・それは多感な時期ですから致し方ありませんね。」
「謝礼を。」
「いいえ。結構です。お気持ちは分かりました。」
「しかし・・・。」
「気持ちを入れ替えるのは少々時間が掛かりますが、ピアノを上達出来る様になると人生にも楽しみが出ますよ。」
「・・・申し訳ない。君の楽団員の子を採用したのにピアノの上達が出来ないばかりか当たり散らかした上、額の負傷までさせたのですから・・・。」
「う~ん・・・その件は僕の楽団員も熱心に厳しくしてしまったせいで、去年から誕生日に父親へ楽曲をプレゼントしようと・・・サプライズだったんですが、負傷の問題でその機会も全て失って・・・。」
「いいや、君達の気持ちはありがたいよ。本当に感謝している。一昨年から本当に妻とは仲が悪くなって、去年、離婚した。今年はちゃんと娘にも誓って恋人と再婚を決めている。」
「今回の件は彼女も反省してるでしょう。大丈夫ですよ、きっと。」
「そうかな・・・。」
「しっかりと夜会に来ていたじゃないですか?」
「それは親友のエリナが居たからで・・・私の言い分で参加した訳ではないんです。」
アリスの部屋の前に立つ。
「アリス。もう少しで帰るけど、僕から言いたい事があるんだ。」
「・・・・。」
「頑ななアリスは、きっと幼い頃は明るく情熱的だった。その真っすぐな瞳を大人達は素通りし、命令以外は邪険にし、君の成長をつぶさに喜ばなかった。邪見は実りある成長を容易く握り潰す。それなのに社交界では父親面をする。だから退屈と寂しさを埋めるには暴言に頼った。僕も母親が嫌いでね。演奏家の子供は、皆、スパルタ教育だよ。喜びの成長は後回しで狭い空間で怒号に脅え演奏だけに没頭させられた。外に遊べる機会なんてほどんど与えてくれない。だから精神的に不安定な大人になるんだよ。急速に完璧な演奏を求められるから自分にも他人にも完璧を求求めるし、窮屈な上、せっかちにもなるよね。」
「世界なんか消えてしまえって。アリスは僕みたいな人間だなって思った。」
アリスはその言葉を聞いて、扉をゆっくりと空けて謝罪した。
「・・・ごめんなさい。」
沈んだ表情に偽りはない。
「僕こそ、口悪く言ってしまった。君や父親があまりにも演奏を聴いてくれないんでね。心あらずだったのは本当の事だよ。」
調律をちゃんと合わせた高級なピアノが壁際に佇んでいた。
「弾いてみて。」
「うん。」
「僕は仲間とともに各国を旅して演奏を披露するのが好きなんだよ。親の退屈な世界から逃げたくて、一生懸命、バイオリンを上達したんだ。でも実はバイオリン以外ピアノはそんなに上手くないんだよ。君の父親は知らないけどね。」
「そうなの?」
「うん。実は怪我した楽団員の女性の方が上手で僕は不得意なんだ。」
「・・・負傷させてごめんなさい。」
「たんこぶは出来たけど、大した事ないよ。しかし、豪快だったね、でも実際は、楽団員の子にオルゴールの木箱が当たるなんてまさか君も思ってなかっただろう?」
「あれ・・・ママから貰ったの、それなのに乱暴にしちゃった・・・。」
「じゃあ、ママから送られた好きな楽曲を弾いてあげよう。」
鍵盤に指を落とす。一呼吸して、演奏を開始した。なめらかな指先の動きに目を見張る。豊かな旋律に数時間前に退屈し、憤ってた自分は何処か遠くに忘れてしまった。
「・・・すごい。」
「ちょっと編曲したけど、どうかな?」
「オルゴールの音色も静かで良いけど、生演奏は、繊細なのに躍動してる。」
「僕も生きた演奏家と自負してるからね。」
「凄い。」
「でも・・・上達するには、その想いは邪魔だね。」
ママから貰ったオルゴールを後ろに投げるが、床ではなくベットにバウンドする。
「酷い!!何て事をするの!?」
「ああ、失敗した・・・壊れなかったね。床に投げ付けようと思ったのに。」
アリスはベットの方向に投げられたオルゴールに駆け寄る。
「アリスの運命なんて簡単だよ。ほんの一捻りで絶望する。」
喋り掛けるシアナの口元には、獣の様な鋭利な2つの牙が生えていた。
アリスの背後でもぞっとする様な雰囲気が部屋中に漂い、アリスは振り向くとシアナは既にアリスの体を捉えてた。がんじがらめの体勢でアリスに乗っかり、ベットが音で軋む。
「退屈なら最高の呪いを掛けよう・・・アリス。」
アリスは青年にガブッと頸動脈を噛まれ、アリスは絶叫した。
父親は既に夜会に戻っていて演奏と会場では、大勢の人と話にアリスの小さな悲鳴は周囲に溶け込み、聞こえない。
意識が遠のき酩酊状態になる。
アリスは、恐怖心を煽られていたが堪え、僅かな力でシアナを足で蹴り上げた。
「助けて!!」
扉を開け、廊下をよろめきながら走る。
ズキズキと痛い傷に現実を如実に感じてしまい泣いてしまう。
「どうなさいましたか?」
メイドが聞きつけて、アリスは懐に飛んだ。
「噛まれた!!ここ!!」
首にある生傷を見せて、メイドにすがる。
「はい?何処にですか?」
メイドはアリスの首の髪を掬い、顔を寄せる。しかし、首の周りを見ても傷痕なんてない。
「シアナに噛まれた!!痛いわ!!」
混乱するアリスを落ち着かせようとメイドは話し掛ける。
「アリス様、首の辺りに傷はありませんよ。悪夢でも見たのですか?」
「だって!ここに!!」
未だに痛みがあるのに何故、メイドは分からないのか?
私は自分の首を見せてやったが、実際に触れてみると傷がない。しかも脈打っていた激痛は次第となくなってゆく。
「夢で幽霊が出たんですか?」
クスクスと笑う。
「・・・あれ?どうして!?でもここにシアナが噛んで・・・。」
「シアナ楽団長なら30分前に帰られましたよ。旦那様も玄関口でお見送りになりました。」
「えっ?」
後ろを見ても誰も居ない。メイドは可笑しなお嬢様に首を傾げている。
「夢なんて、そんな?」
今日は一度もも寝てないのに。
「アリス様、お酒の臭いがします。そのままベットで潰れて寝てしまったのでは?」
「今からお水をお持ちしますね。今夜はゆっくりとお休み下さいませ。」
怖くてベットに行けなかったので、少しの間、メイドと一緒に過ごした。
寝室へ帰るとシアナは本当に居なかった。
勘違いしただけ?そう自分に言い含め、落ち着かせた。
ただの夢だとしてもリアルだったから。
鍵盤の蓋は閉じてあったが、中敷きの赤い布が床に落ちてあった。
寝付けなく真夜中に起きた。
アリスは無性に喉が渇いて水を飲む。
******
翌朝。
目も渇いた感じがして部屋の辺りはぼんやりと霞む。
髪もボサボサでドレスから着替えてネグリジェを着ていたが、昨日の夜会の美姿とは全く違う。
中敷きの赤い布の違和感があったがまだ頭が回転しておらずぼんやりしている。
赤い布が床に落ちてる。
「シアナ・・・。」
はっきりと鮮明に覚えてる。確かにあの男は私を襲い首を噛んだ。
激痛は脳に鮮明に覚えてる。間違う筈はない。
ここの屋敷はすぐ出口の庭に繋がるので簡単に侵入しやすい。
何処か違う扉から屋敷にもう一度、侵入した筈。
あの男。
アリスはぞっとする。
獣の様な鋭利な牙を生やしていた。
「殺しにやってきた?」
私達、家族を・・・。
アリスは父親のところへ行く。
しかし、父親は客間のソファーで酔い潰れて寝ていた。
「何だ・・・。」
いつもの父親だった。
汚く豚みたいにイビキを掻いてる。
別に何も心配する程じゃない。
客間の扉を閉じると、若い女性が声を掛けに来た。
「マリア・・。」
父の愛人であり、婚約者。
「おはよう・・・アリス。」
「ママは不在よ、何か用?」
ママが居ない事を当て付けに言う。
「昨日は夜会だったからちゃんと寝れた?」
「この家にママなんて要らないから。もう二度と来ないで・・・次、会ったら殺すから。」
捨て台詞を吐いて鬱屈した気持ちを吐き出す。
厳しく当たるのはこれが初めてじゃない。
楽団員の子にも二度と来ないでと言った事がある。
でも赤の他人に「殺す」という言葉を吐いたのは初めてだ。
私に微笑んだが、傷付け甲斐がある子供だとこの愛人は知っている。
この愛人はママを嵌めたから。
眠れない夜が続いた。
いつまでも愛人の存在が鬱陶しく脳裏に蘇る。
社交界で愛人を初めて見た時は、美醜関係なく金持ちに声を掛ける魔女だった。
色情で惑わして豪富の金を搾取する挑戦的な女だと言う事は社交界では有名だった。
悪態を吐く言葉も聞いた事がある。
父親もそれを知ってる、それでも愛人として迎い入れ、ママを酷く傷付けた。
真夜中の寝室には私と天井の澱んだ空間しか居ない。
「ママは死んだの・・・離婚なんかじゃない。過呼吸と心労で死んだのよ。」
私だけが知ってる。ママは持病があるから。
「死んだママを返してよ!!私のママを!!」
張り裂ける胸は慟哭の泣き声だった。
皆、嘘を吐いてる。
メイドも。
父親も。
可哀想なアリスだって思ってる。
父親は周りの知人に妻のせいで離婚したと言ってる。
実際は、心労で死んだのに。
喧嘩の末に心臓を悪くしその場で倒れた。
私は現場を扉の隙間から見ていた。
それなのにメイドも父親もママは実家に帰ったと嘯いた。
「嫌い・・・皆、嫌い!!」
枕の元にあるオルゴールを投げ付けて、床に落ち、一度は音楽が鳴り響いたが途中で切れた。
アリスは泣きながらオルゴールを拾い上げ、胸に当てる。
「死にたい・・・ママに・・・会いたい。」
「自然界の中で自殺するのって人間しか出来ないよね。野生の動物にはない感情さ。死ぬなんて言わずにさ。敵を罵り殺すべきだよ。」
全く使わない白い椅子の背凭れに腕を掛けて座る青年。
薄暗い部屋でシアナは微笑む。
「・・・。」
ベランダのカーテンと扉が開いてる。
「今晩は・・・アリス。」
「そのオルゴール直してあげようか?」
心配そうにオルゴールを拾い、陽気に喋る。
「・・・壊した癖に・・・。」
「壊してない。箱を壊したのは今の君だよ。」
「君が君である為にはオルゴールは必要ない・・・でも今の話を聞いて・・・本当に大切なんだと気付かされたよ。」
「僕も知らなかったよ、離婚じゃなかっただなんて。大好きなママが死んだんだね。」
アリスはこくりと頷いた。
「最愛のママの別れ際を・・・父親は居る目の前で知ったんだね。」
「そう・・・最悪だった・・・。社交界の人達でバレたくないからママをそこの庭に埋めたのよ。」
「そう・・・空気が悪いね。窓を開けよう。冷風が気持ち良い・・・アリス、ほら、月が。見て、あの煌々とした赤い月・・・。」
アリスは月を見た。大きくて圧倒的に存在感のある赤い月。
「退屈させない月だろう?」
アリスの瞳孔が開く。
「う・・・はあはあはあ・・・」
アリスは机に置いてある飲みかけの水を飲み干した。
「退屈は僕もこりごりだ。これからの事を考えよう。」
それでも喉が渇く。アリスはガラス瓶にある水をコップに注ぎ、飲み干す。
「その汚い父親に復讐を始めよう。」
シアナが目を細めて嗤う。
「ふふ・・・苛烈に喉が渇くだろう?最初の渇きは異常だよ。僕に噛まれたベイビーは大量に人間の血を欲しがるから。」
シアナを見つめると青い洞窟の瞳は赤黒い月の瞳をしている。
アリスの黒い目が彼岸の花の様に赤く染まる。
「あぁ、ノド、がァ・・・水!!」
「ごめんね。水を持ってないんだ。」
「喉が渇く!!ノドが!!」
「水より打って付けの飲み物があるよ。」
シアナは、ナイフで自分の前腕を傷付けて、アリスの口元に寄せる。
「そう、喉が渇いたら血を舐めるんだ。さあ、舐めて。僕が捕食した血は幼子や戦争の兵士の生き血も・・・この肢体の隅々に命として宿ってるだよ。」
「血、水、が・・・あァ、はあ、濃いわ。」
ぼうっとした意識が冴えてくる。
「待って・・・血をもっと。」
「なら、この屋敷を壊せ。そして骨の髄まで血を飲み尽くせ。ミイラに枯れるまで、それがアリスの使命だ。」
アリスの顔に手を添え、その瞳に訴えかける。
「・・・使命・・・。」
「そう、美しき僕のアリス・・・これは使命さ。」
 
 
=完=