はやる気持ちを抑えながら、無表情に近い顔でキーを回し、エンジンをかけた。
向かう先は決まっているのになぜかアクセルが踏み込めない。
薄暗い車内にビルの蛍光灯が反射して窓ガラスに自分の無表情の顔が映し出されると蓮は表情を和らげた。


「・・ふふっ・・」


柄にもなく緊張しているとは
重要な会議でもここまで緊張しないだろう・・に・・


軽く息を吸い込み、少し長めに息を吐き出すと蓮はふと彼女の家に何を持っていくべきなのか考え始めた。


「・・お見舞いに・・何を持っていくんだ?」


蓮は自分が見舞いに来てもらった時に何をしてもらったか思い出してみた。


入院した時は確か・・


山のような書類と社に手わされた社印を片手に、重要書類だけ目をとおして、チェックして、必要に応じて印鑑を押し、それを社さんにお願いして副社長に届けてもらったり・・と・・


その次の日はパソコンを3台持ち込んでネットミーティングをしていた・・か・・


3日連続で仕事をしたところ、医師に見つかって怒られた。
その後は面会謝絶にされて、確かその日の夕方くらいから、花束で病室が埋め尽くされ、迷惑だからってことで、結局自宅療養になったんだったか?


自宅に戻れば、今度はめまぐるしく見舞いに来る彼女たち入れ替わり立ち代わり訪れて・・・・
訪ねてきてくれた彼女たちが自分に何をしてくれたのか、まったく思い出せず、蓮はため息をついた。
どれ一つ心に残るものではなかったのだろうか・・。


「・・・・俺って・・・ひどい男だな・・」


過去の自分と向き合ってポツリとそんなことをつぶやきながら、携帯電話を手にした。


「社さん・・・・すみません・・ご相談したいことが・・」
くすくす笑う社の声に軽く眉間にしわを寄せながら、蓮は見舞いに何を持っていけばよいのか相談した。