いったいどういうことだろうか・・
蓮は、本屋から戻るとデスクに寄りかかりながらナツとキョーコのことを考えていた。
よく見ていれば、気がつけたのかもしれない。
さっき見たあどけない横顔にキョーコの顔がピタリと一致する。
雰囲気を少し変えただけで、これほどまでに印象が違うなんて、まるで女優のようだと考えていた。
社さんは知っているのだろうか・・
それとも、何か理由があってのことなのか・・
いずれにしても社さんは、何らかの事情を知っているに違いない
蓮は寄りかかっていたデスクから体を起こすと、卓上の電話に手を伸ばし社の内線へと連絡をした。
「・・社さん都合のつく時間帯に来ていただけますか?」
やけに丁寧な口調に社は首をかしげた。
それと同時に数分前にキョーコからかかってきた電話の内容を思い出す。
『ユキヒトさん・・、その時間がないので用件だけですみません。先ほど敦賀さんにばったり出くわしてしまったのですが、ナツがキョーコだと分かってしまったと思います。その、すみません。一緒にいた者がうっかり私の名前を呼んでしまって・・』
慌てた様子のキョーコに、社はクスリと笑いをかえした。
『大丈夫だよ、忙しいのにワザワザ連絡をくれてありがとう・・うん・・・・たぶん訊かれるかもしれないね・・大丈夫だよ・・うん・・じゃ、また連絡するね』
その時のキョーコの動揺した様子に何事かと耳を傾けた。彼女が困ることがあるならできる限り助けたいという思いが強く宿ったことに自分でも驚いたのが数分前。
蓮に呼び出されたことと、キョーコが連絡をくれたことはきっと同じ件だろう。
「・・訊きたいのは、キョーコちゃんのこと?それとも・・・・ナツのこと?」
少しの沈黙の後、蓮がため息の様な返事をした。
『・・両方ですよ、社さん・・』
少し疲れた声が攻めるように聞こえたのは、気のせいだろうか?
「なら、わざわざ行くまでもないな、キョーコちやんは、会社に来てくれる派遣さん、・・ナツは俺の彼女だよ・・たとえ他の男と仲良く歩いていたとしてもな・・・・」
そのはっきりとした返事に、蓮はひどく驚いた。