キョーコが会社に顔を見せなくなってから1週間がたった。
役員室の一角。
静かな廊下を歩きながら社は携帯を見ていた。
仕事でしばらくメールができないと短いメールがキョーコから届き、それを見て社は寂しそうにため息をつくと、携帯電話を閉じて強く握りしめた。
「社さん・・彼女からのメールですか?」
蓮の何気ない一言にぎょっとして慌てて顔をあげると、少しやつれたような蓮の顔がじっと見ていることに気が付いた。
「あぁ・・彼女から連絡で・・って・・お前大丈夫か?」
そう言いながら社長室の方へ蓮を連れて行くと社は蓮をソファーに座らせてその顔を観察した。
顔色も悪く全体的に疲れているような感じに小さなため息をつく。
「えぇ・・最近また眠れないんですよ・・そのうち治ると思いますので気にしないでください。」
「・・そうか?少し休んだらどうだ?・・あれ?でも、昨日も早くに帰らなかったか?」
昨日は蓮が自ら少し疲れたから早めに帰宅します。といってこの部屋を出たのは19時ごろだったはず・・
そのわりには昨日より体調が悪そうだ。
「えぇ・・そうですね・・でも・・結局眠れなくて・・」
「無理しないで今日も早く帰れよ?・・たまには会社と自宅の往復じゃなくてどこか立ち寄ったらどうだ?・・お前が読みたかった新刊もそろそろ出るころだし、たまには自分の足で予約でもしてきたらどうだ?」
社の提案に蓮は納得したように壁にかかっている時計に視線を向けた。
「そうですね・・気分転換になりそうなので休憩がてら今から行ってきます。・・午後は会議で缶詰なんでね・・」
「ついでに食事にも行ってこい・・」
「クス・・それは遠慮しておきます。では、30分ほど席を外しますね・・」
「まったく・・気を付けて行ってこいよ?」
そう言って蓮を見送ると軽く手を振って颯爽と蓮が部屋を出て行った。
「・・・・また、不眠症か・・ったく・・」
社は蓮が出て行った扉に視線を向けたままひとり呟いた。
蓮が不眠症に陥ると必ず女性と連絡をとる。身体を限界まで酷使して疲れて眠ると言う最悪のローテーションを繰り返し、意識を手放すように眠る。
今みたいに特定の彼女がいない場合に、こんな状況になったことは今までない。
一体どうなるのか・・
それに・・
蓮は自分で気が付いていないのか、気が付かないふりをしているのか・・
チラッと手元の携帯に視線を向けると社は強く握りしめ、キョーコの顔を思い浮かべた。