蓮が感情的に話しをするのを始めてみた。


あまりに驚いて何一つフォローすることができず、自分でも情けないと反省しながらも、まさか目の前でこんな蓮に出くわすことができるとは、夢にも思わなかった。




キョーコは黙って椅子とバケツを手に取るとペコリと頭を軽く下げて寂しそうに顔を歪めた。
本当は、笑いたかったのかもしれないが少しだけ口許を歪めたその表情は、思わず声をかけるのを躊躇うほどだった。


「あの、ごめんなさい・・社さん、その、ありがとうございました。」
彼女が逃げるように廊下から姿を消すと、社は急に現実に引き戻された気がして、去っていったキョーコの後ろ姿から、慌てて蓮に視線を戻した。


「おまえな・・・」
社はそう言いかけて言葉を呑むと、ひとまず社長室に入ってからにしようと社長室の方向を指差した。



部屋に入ると重い沈黙が広がる。


「蓮・・・・」
氷の美貌と称されるその顔は感情が何一つ読めず、瞳の奥に暗い影が宿っているのが微かにわかるくらいだった。


「毎回毎回、キョーコちゃんに失礼なことばかりしていると、仕事に来てもらえなくなるからな?・・しかもものすごいキョーコちゃんには似合わないセリフで牽制して、いったいどうしたらそんなセリフが出てくるんだよ・・・・」
そういいながらも社は蓮が感情的になることを悪いとだとは思わず、むしろ歓迎していた。


「で、どうするつもりなんだよ?・・冗談にしては言って良いことと悪いことがあるのはわかっているよな?・・しかも前にも話したけど彼女はいまどきの娘とは違って天然記念物的乙女だって言わなかったか?俺。・・彼女確実に傷ついていたぞ?」
その時のキョーコの顔を思いだし、蓮はさらに険しい表情になった。


「そうですね・・・・」
自分の感情が上手くコントロールできないのか、蓮は険しい表情の中に困惑の色を浮かべていた。



そして数時間後LME から連絡が入り、しばらくの間担当を代えさせてもらいたいと急な連絡が入る。


その話が蓮と社に届くのは、さらに2日後のことだった。