社が部屋を出ていくと蓮は、キョーコに言われた言葉を思い返していた。


「嫌味は結構です。か・・」
確かに今までの自分の態度を考えるとそう言われても仕方ない言葉だった。


女性不振だったころに、薬でぼっーとした頭で無理矢理キスしてしまったこと、彼女の仕事に口を出してしまったこと・・今までこんなに感情的になることはなかった。


無防備な彼女を見ていると、なぜか無性にイライラする・・



珍しく部屋の外に足音が聞こえ、蓮は耳を傾けた。重役の部屋と会議室しかないこの付近で女性の声が聞こえるのは珍しい。聞き覚えのある声につられ、持っていた書類を机に置くと蓮はドアを静かに開けた。


そこには、予想通りキョーコの姿が見えた。その隣には社が楽しそうに話している。
まるで恋人といるような二人の雰囲気に蓮は、声をかけるのをためらいその様子を伺っていた。


楽しそうに笑うキョーコにまた苛立ち、押さえられない感情がふつふつと沸き起こる。


社がぐらついた脚立から降りるとチラリと視線を天井に向けた。その動きに蓮も天井を見上げる。
この距離からでは何も見えず、視線を二人に戻すとキョーコが驚いた顔をして社に抱きしめられていた。


その光景にチクリと胸が痛み、すぐにでも二人を引き離したいほどの思いが込み上げてくる。
今まで感じたことのない苛立ちに蓮は、無意識に二人の前に立ちはだかった。


「随分・・楽しそうだね・・社さん、それに・・最上さん?」


彼女に怯えたような視線を向けられ、なんとか押さえ込んでいた感情が暴れだす。


「・・君の素敵な笑顔で、優秀なうちの社員を誘惑しないでくれるかな?」


冗談を言っている瞳の奥が笑っていないことに気が付いて、キョーコよりも社が驚いた顔をしていた。