脚立を移動させようとして、キョーコが通風口の下に移動すると、社はキョーコの腕を強く引き寄せ、その腕に抱きしめた。


「ぶつからなかった?」
何のことかわからずキョーコは、急に引き寄せられたことに驚いて声を詰まらせた。


「あ、っえ・・っ・・」


「あ、ごめん何のことかわからなかった?氷が落ちてきたんだよ・・ほら・・」
そう言って社は床を指した。
小さな塊がジュータンにパラパラと落ちその横に少し大きな塊があった。


「気がつきませんでした。その・・ありがとうございます」


自分が社の腕に掴まっていることに気がつくとキョーコは、慌てて手を離した。


「ご、ごめんなさい・・」


「いや、俺が急に引き寄せたからね、それに・・」


彼女だからね・・偽物だけど・・


小声で冗談めかして社が囁くと、キョーコもその悪戯のような会話を楽しむように小声で返事した。


「そうでした。ありがとうございます、ユキヒトさん・・」


互いに一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて楽しそうにクスクスと笑った。
何が楽しいのかわからなかったが、お互いずっと笑っていた。


その沈黙を破るように足音が コトッ と聞こえると、その靴音に二人は、笑いを止めて振り返った。


「随分・・楽しそうだね・・社さん、それに・・最上さん?」


そこには、少し機嫌の悪そうな蓮がじっと見ていた。