「え、あっ・・・・はい・・」
キョーコはなんて応えれば良いのかわからず、しどろもどろ返事をした。
恋人ごっこの続きで社さんに連絡をすることを思い出し瞬時にそんなウソをついた。
「そう・・彼氏がいるのに・・こんな時間まで独身男性の部屋にいるのは感心しないね?」
キョーコはそれには答えずに、蓮の調子を伺うように顔色をながめた。
ほんの少しの睡眠でも回復できたのか、心なしか顔色がよくなったように思えた。
「・・・・体調はどうですか?」
「・・ん・・少し良くなったみたいだよ・・」
さっきまでそばにいて欲しいと言った蓮とはまるで別人のような冷たい視線にキョーコ少し怯えた。
「あの、それではそろそろ帰宅しますので・・」
蓮の冷たい視線に耐えられず、キョーコは視線を逸らしたまま荷物をまとめはじめると、蓮が一緒にリビングまで歩いてくるのを感じた。
「あの、敦賀さん・・・・もう少しお休みになった方が・・・・」
「そうだね・・」
穏やかに応えながらも蓮はなぜかイライラしていた。
キョーコが自分に怯えていることにだろうか・・
それとも別の何かだろうか、ただ彼女が帰ろうとしていることに心が強く反対していることは確かだった。
・・俺はもしかして彼女にそばにいて欲しいと思っているのか?
自問自答しながらキョーコの様子を見る。
手早く片づけ始めた彼女の手をどうやって止めるべきか、そんなことを考え始めた。
「最上さん・・タクシー呼ぶからそれまでもう少しいたら?」
「え?・・あ・・はい・・でも・・」
そう言ってキョーコが携帯電話に視線を向けると、その仕草に心の中にモヤモヤと霧が立ち込めるようなきがして、蓮のイライラを刺激した。
「・・彼氏が心配するから?」
「あっ・・はい・・」
尋問されているような気分になりキョーコは仕方なくその場の流れにあわせて返事をする。
「・・・・そんなことを思うくらいだったら、この仕事を辞めたらどうだ?・・こんな遅い時間に男の部屋で料理作ったり・・俺だったら許せそうにないよ・・」
その一言にキョーコは押さえていた感情が爆発した。
パッチン!!
「さっきからずいぶん勝手なことを言ってくれますね!帰ろうとした私を引き止めたのはあなたです!病人に『そばにいてほしい』と腕を掴まれたら普通の人は帰れません。それをわかっていて引き止めたんじゃないんですか?なぜ、あなたに仕事のことまで指図までされないといけないんですか?そんなに私のことが嫌いなら、社さんに言ってください。二度とここには足を入れませんから!!」
キョーコは頭にきて蓮の左頬を思いっきり叩いた。
叩かれた蓮は驚いて目を見開く。
そんな蓮の様子など気にせず、キョーコは自分がしてしまった右手を見つめ寂しそうな顔をした。
「・・それでは、失礼します!」
勢いよくバッグを掴むとキョーコは逃げるように玄関を出て行った。