キョーコは驚いた顔をしながらも病気で心細くなっているからだと、自分を納得をさせて蓮に優しい笑顔を向けた。


「・・眠れるまでそばにいますから・・」
囁くように返事をすると蓮は安心したのか、キョーコの手を握ったまま、あっという間に眠りに落ちた。


規則正しい寝息が聞こえてくると、その様子を見守りながらしばらく蓮の綺麗な寝顔に見とれていた。
額にのせているタオルを冷やそうと掴まれた手を離そうとすると思った以上に強い力で握られていて、つながれている手は離すことができなかった。


「ん~、どうしよう・・」


手と時計に交互に視線をむけて、どうするべきか考える。
まだ、明日の予定も確認していないことに気がついてキョーコは、再び蓮の手から逃れるためにゆっくりと指をはなしはじめた。


ふぅ~
これで連絡できるわ・・


しっかりと握られていた手からやっとのことで抜け出すと、温もりを失った手が心なしか寂しく感じた。
キョーコはそんな想いに気づかないふりをして携帯電話を後ろのポケットから取り出した。


あれ?社さんから?


携帯電話に着信を知らせるマークがついている。
何だろう?と思いながら、メールの本文を読むと 先日の恋人ごっこの続きに数日メールのやり取りをしてほしい という内容だった。
あまりにも、可愛らしい内容にキョーコはクスクスと笑い、最後に証拠隠滅のためにこのメールは読んだら捨ててくれる?と書いてあったことで、また笑いを誘った。


船上パーティーのときに社さんに なぜ彼女役が必要なんですか?と訪ねたのを思い出す。
あの容姿で、しかも性格も優しいとなれば周りの女性が放っておくわけがない。


そう訪ねたら、社さんはひどく真面目な顔で「女性不振なんだ・・蓮のせいで」と言っていた。


結局どこまでが本当か分からなかったけど、私が驚いて目を丸くしていると。
社さんがクスクスと笑い始めて、しばらくすると肩を揺らしながら笑い ごめん と言って私の髪を撫でてその話が終った。


その何気ない仕草にドキドキしたのを思いだし、キョーコはなぜか自分の髪に手を置いていた。
あの時の ごめん がどういう意味だったのか私には理解できなかった。


まったく・・・
ヒズリ社は、女性をドキドキさせるのが上手いわよね・・・


社から届いたメールを読み終えると証拠隠滅のためにメールゴミ箱に捨て、さっそく恋人らしいメールを送ろうとしたところで後ろから声を掛けられてビクッと体を震わせた。


「・・・・彼氏に連絡?」


少し擦れた声と射るような視線にキョーコは驚いて振り返った。