ご飯を食べ、テレビを見ながらどんな話をしたのか、何に笑っていたのか・・
それすらも分からないほど楽しい時間を過ごしていた。


「敦賀さんその食事に誘ってくださって、ありがとうございます。すごく楽しかったです。」


「俺の方こそ、すごく楽しかったよ・・その・・また、料理を作ってくれるかな?」


「はい、もちろんです!いつでも依頼してください」
その言葉になぜかチクリと胸に痛みが走った。
気を取り直して再び笑顔を向けるとキョーコの顔が少しだけ寂しそうに見えた気がしたのは、気のせいだっただろうか。


「あの、それじゃそろそろ帰ります。後片付けしますね?」


「いや、大丈夫だよ。もう時間外でしょ?・・後は俺がやっておくから・・自宅はどの辺り?送って行くよ・・」


「そんな!大丈夫です。まだ終電もありますし・・・・」


「遅くなってしまったからね・・送らせてくれると嬉しい・・だから気にしないで?」
食器を片付けながら蓮が席を立つと、不自然にテーブルに手を着いたかと思うと体を支えるようにテーブルに体重をかけ、そのまま椅子の横にしゃがみこんだ。
その様子にキョーコが慌てて蓮の横に屈んで顔をのぞきこんだ。


「つ、つ敦賀さん・・大丈夫ですか?」


「あぁ、ごめん。驚かせてしまったね・・最近不眠症で眠れなくて・・今も眠いんだけどベッドに入ると頭がさえて眠れないんだ・・軽い立ちくらみだから大丈夫だよ」
蓮の話を聞いてもキョーコは少しも安心することができず、蓮の腕を掴んで心配そうに見つめた。


「ひとまず、ベッドに横になってください。眠れなくても横になるだけで違いますから・・」

「・・そうだね・・ありがとう・・」
素直にお礼を言われ、キョーコは恥ずかしそうに微笑んだ。



蓮がベッドに横になるのを確認するとキョーコは水を取りにキッチンへ戻り再び寝室に足を向けると、蓮は疲れた顔に優しい笑顔をつくりキョーコに視線を向けた。

「あの、どなたかお呼びしますか?・・そろそろ帰りますので・・」

サイドボードにグラスを置きながら、蓮の様子を伺う。
熱が少し上がったのか仄かに色づいた頬と苦しそうな息づかいを見てキョーコは心配になった。


「いや、大丈夫だよ。それよりごめんね・・帰る時間が遅くなって・・」

「いえ、タクシーを呼びますから気にしないで下さい。それより何か必要なものがあれば、ご用意しますけど・・何かありますか?」


蓮の気だるそうな瞳が宙をさまよった後キョーコに向けられる。
その動きに額にのせていたタオルがずれ落ちそうになりキョーコが手を伸ばしてタオルを額にのせ直した。

その瞬間に蓮の熱い手がキョーコの手を掴む。


「最上さん・・君にいてもらいたい・・」
熱で潤んだ瞳が、凄まじい威力でキョーコを捉える。

捕まれた手が火傷したように熱い・・


「君にいてもらいたいんだ・・・・」


「そばに・・いてほしい・・・・」