「ん・・・・」
薄暗い部屋に微かに食欲がそそられる匂いがして、その香りに誘われるように蓮はゆっくりと瞼を持ち上げる。
まだ、すっきりとしない頭で、自分の今の状況を考えはじめた。
・・・・帰った・・のか?
それとも彼女が何か・・作っているのか?
薬がまだ効いているのか、考えが上手くまとまらない。
いや、この部屋で料理を作る女性など今までいなかった・・
・・・・・?
気だるい体を引きずるように蓮は、リビングに向かうと部屋よりも濃い香りに食欲がわいてきた。瞳を閉じれば食事が目の前に用意されているようだった。
キッチンでは鼻歌を歌いながら、楽しそうにキョーコが料理をしている姿が目に留まる。
その姿は見ている蓮まで楽しくなるほどで視線を逸らせないでいた。
・・可愛いな・・・・
声をかけても最上さんは今のまま楽しそうにしていてくれるだろうか・・
そんなことが頭の片隅によぎる。
さっきまで腕のなかにいた彼女たちのようなつくり笑顔ではなく最上さんのように自然な笑顔の女性にそばにいてもらいたい・・・・
そんな想いに至り蓮は苦笑した。
・・・・疲れすぎか?
いつから、女性に癒されたいなんて思い始めたんだろう?
リビングの壁に寄りかかるキョーコを見つめた。
・・一人なのに本当に楽しそうだな・・・・
くるくると変わる表情は見ていて飽きることがない。
その楽しそうな時間に自分も同席できたことに蓮は喜びを感じていた。
キョーコは、料理をしながら優しいし視線を感じキョロキョロと辺りを見回すと、蓮が壁に寄りかかりじっと見ていたことに気がついて、恥ずかしそうに頬を染めた。
「こ、こんばんは・・その、恥ずかしいからすぐに声をかけて下さいよ・・」
上目づかいに蓮を見つめると、蓮が艶やかな笑みを浮かべた。
「楽しそうだったから、声をかけそびれてしまって・・」
「ぅっ・・み、見られる方は、恥ずかしいんですよ・・?」
「そうなの?すごく可愛かったよ」
さらりと挨拶を交わすようにそんな言葉を返されてキョーコは、急にドキドキし始めた。
「そ、そ、それはどうもありがとうございます」
「どういたしまして」
作り笑いではない蓮の笑顔にキョーコは、目を見開くと顔をひきつらせた。
そんなキョーコの様子を見て蓮は複雑な心境で彼女を見つめ返した。