「蓮・・今日の夜キョーコちゃんが夕食を作りに来てくれるから、ちゃんと食えよ?」
話を上の空で聞いていた蓮に視線を向けた後、机の上の薬の殻を見つけてため息をついた。
「蓮・・お前また眠れないのか?」
「・・どうしてなんでしょうね?・・なぜかたまに不眠症に陥る・・しかもひどい時には1ヶ月とか・・それに今回は・・どういうわけか食欲もないので、かなり疲れますね・・」
めったなことでは体調が悪いなどと言うことのない蓮が、自ら調子が悪いと認めたことに社は眉間に皺を寄せた。
「蓮・・今日はもう帰ったらどうだ?」
そう言いながら社は、蓮が不眠症になる原因について心当たりがあった。
仕事が落ち着いているときに彼女と別れると必ず不眠症になる。
仕事が忙しい時には平気なのに、今回のようにプロジェクトがひと段落した後などは絶対に体調を崩す。たいていの場合は1週間もしないうちに治るのに今回はもうすぐ2週間たつ。
さすがに心配になってあれこれ色々手を尽くしてみたが・・
「・・・・帰って・・何をしましょうか・・仕事・・ですかね?クス」
冗談とも本気ともつかない発言は、力がこもっていない。
「急ぎの件があったら、連絡してやるからせめて、ベッドで横になっていたらどうだ?」
「・・そうですね・・少し休んできます。夕方には戻りますよ・・」
「いや、いいよ・・今日はそのまま帰宅してくれ・・プロジェクトも終わったばかりだし、今のお前に必要なのは休息だよ・・働きすぎなんだよ・・まったく」
「あなたもですよ・・社さん・・じゃ、部屋に戻らせてもらいます・・」
エレベーターホールで眠気と闘いながら立っているとふわりと柔らかい温もりが腕に絡みついてきた。
「蓮・・今日は帰るの?」
「あぁ・・ちょっと仕事がひと段落したからね?」
瞳と付き合う前、彼女は今みたいに俺の心を埋めてくれる存在だったのを思い出す。割り切った大人の関係。
今の俺に必要なのはこういう関係なのだろうか・・
「ねぇ・・部屋にお邪魔しても良い?」
「・・クス、勤務時間中に?」
「クスクス、だってわが社はフレックスタイムでしょ?あと5分で終わりなの・・だから・・ね?お願い?」
疲れた体も彼女の甘い香りに埋もれれば少しは休むことができるだろうか・・
そんな自分勝手な思いが頭によぎる。
「今日一日の付き合いで良いから・・ね?・・・蓮?」
甘えるような言葉が、今の孤独を埋めてくれるような気がして、蓮は彼女の腰に手をまわした。
「夕方には仕事に戻るんだ・・」
YESともNOともとれる答えを彼女にかえすと、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべて彼女がエレベーターのボタンを押した。
「じゃ、決まりね・・蓮・・」