船上でのパーティーを少し早めに切り上げると、少し距離のある駐車場まで歩き始めた。


「社さん、お疲れ様でした。・・その今日は本当に仕事なんて思えないほど楽しかったです。」
キョーコは外見に似合わないほど堅苦しい挨拶をすると、社がクスクス笑って返事をした。


「俺の方こそすごく楽しかったよ。・・今日は本当にありがとう。一瞬本当に自分の彼女なんじゃないかとおもっちゃったよ」


「本当ですか?ありがとうございます。そう言っていただけるとこれから先も頑張れるような気がします。」
社はその言葉に不安を感じた。


「えぇ~っと、その気を悪くしないでほしいんだけど・・その・・こういう仕事はよくあるの?」
社の言いたいことがなんとなくわかり、キョーコは苦笑した。


「内緒ですけど・・ヒズリ社の方だけなんですよ・・その・・身元がしっかりしていない人とは契約しないんです。それに身元がしっかりしているだけでも社長は仕事をとらないみたいです。・・・何て言うか・・その・・社長が気に入った人しか仕事が来ないというか・・・」
少し困った顔をしながらキョーコが社に視線を向けた。
その応えを聞いて社も安心したようにほっと一息ついた。


「そっか、それを聞いて安心した・・こんな綺麗な人に、役とはいえ腕を組まれたり、優しく微笑まれたりしたら理性が崩壊しそうだったよ・・」
社が悪戯っぽくそんなことをいうと、キョーコは恥ずかしそうに真っ赤になった。

「もぉ~、社さんからかわないでください・・・・一瞬本気にしそうでしたよ・・」
クスクスと笑うキョーコを見つめ、社は心の中でため息をついた。


・・・なるほど・・まったく脈なし・・ということか・・
ここまであっさりと冗談にとられるとあきらめもつくな・・・


「あの、社さん・・私ちょっとヒズリ社に立ち寄りたいのですが、ここで解散しても良いでしょうか?」


「え?・・会社に?社員でもないのに入れるの?」


「・・・あ、はい・・その敦賀様の部屋のお掃除を担当しているので契約している時間は社内の一部も出入りが自由なんです。・・・その今日は着替える時間がなかったので、ヒズリ社のロッカーに私服が入ったままなので・・この時間だったら誰もいないですし、取りに行こうかと思って。」


「なるほど、じゃ会社まで送るよ・・それにちゃんと家まで送るから・・」


「でも・・もう時間外ですよ?」
いまどきこんな返事を返す娘がいるとはおもわず、社は驚いた顔をした。


普通なら喜んで飛びつくだろうに・・


「今度は友人として・・というのでどう?・・女の子一人をこんな時間に一人にできないよ・・」
社の優しさを感じてキョーコは素直に頷いた。


「ありがとうございます。・・ではお言葉に甘えさせていただきますね?」



艶やかに笑うキョーコの笑顔に今日何度目かわからないドキドキを体験した。