船上でのパーティーは、思ったよりも緊張しないですんだ。
社さんが終始気づかってくれたこともあるけど、一番の理由は、この景色と豪華な装飾品にワクワクしていたことかもしれない。



化粧室でメイクを直しながら鏡の中の自分をじっと見つめると、自分でも誰か分からないほど上手くメイクでごまかしていると思う。
会った瞬間の社さんの表情に、ほんの少しだけ自信を持つことができた。


「さて、戻るか・・・・」


ドアを開けると、ウェーブのかかった長い髪の女性が艶やかに微笑んで、少しビックリした表情をしているのをみて、キョーコも同じような表情をした。


「・・瞳さん?」
キョーコは瞬時にナツへと心を切り替える。


「あら、ナツさん・・・・パーティーは楽しんでいる?」
会場に入る前に紹介してもらったばかりの敦賀さんの恋人だ。
女性から見ても魅力的な人で、廊下でたたずんでいる彼女に、通る男性が皆振り返っていた。


「さっき蓮と一緒にあなたたちを見ていたのよ・・あなたが社さんにベタ惚れなのかと思ったけど。社さんの方が、あなたにゾッコンなのね?」
瞳の悪戯な笑顔にナツは、驚いて目を見開いた。


まさか、周りからそんな風に見えていたなんて・・・・


社さんの彼女として質問に応えるのであれば、答はこれしかなかった。
役に入れば、ある程度のことには動じないで対応できる。

気が付かれないようにゆっくりと息を吸い込んで心を落ち着かせた。


「本当ですか?・・だったら、とても嬉しいですけど・・・・クス」
そう言ってナツは、少したけ頬を染める。その様子を見て瞳もクスクスと笑った。


「・・何だかうらやましいわ」
言われた意味が分からずナツがキョトンとした顔をすると。瞳は少しだけ寂しそうに微笑んで、一言つぶやくと化粧室に入っていった。


・・私たちには・・そんなことはありえないから・・


彼女のつぶやいた一言はどういうことだろう?

敦賀さんと瞳さんの寄り添う姿は、ため息が出るほど美しかった。豪華な装飾品さえ二人の前では霞んで見えた。


あの時を除いて敦賀さんは紳士的だった。なぜ、私に無理矢理キスしたんだろう?

キョーコは自分の唇に手をあててその答えを探すように宙を見ていた。