「ねぇ・・村雨さん・・どこに行く?」
セツの扮装を解いてキョーコが甘えるように村雨に尋ねていた。その様子はどこかナツを思わせて、蓮は背中に嫌な汗が流れた。



>>>>> 夢のかけら >>>>>>



BJの仕事が終わりキョーコと帰宅する予定だった蓮は、その姿が見えないことを訝しく思いスタジオの中を探し始めた。
カインのままセツを探しに行くとスタッフたちも距離をとってくれるので蓮は自由気ままに歩き回ることができた。敦賀蓮ならこんなとき、すれ違う人に愛想よく笑顔を振りまいている。それがないだけでこれほどスタジオの中が歩きやすいことを初めて知った。


・・いったいどこに行ったんだ?


キョーコの名前を呼ぶわけにもいかず蓮は一人でウロウロ歩き回っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきて足を止めた。
セツよりも少し高い声、いつものキョーコの声だった。
まだセツの格好のままなのに、なぜだろう?と思いながら蓮はその声のする方へ足を向けた。


「村雨さん・・この間のお話ですけど・・その・・私で良かったら・・・・ぜひ・・」


「え?本当?・・・・付き合ってくれるの?・・すっげぇ~嬉しい・・じゃ、さっそく食事でも行こうか?・・あ、でもこれから仕事なんだっけ?・・何時に終わるの?」


「えぇ~っと、そうですね・・1時間くらいでしょうか・・直ぐに終わりますから・・」
キョーコの嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきて、蓮は心臓を強く握りしめられたように息ができなかった。
その様子を確かめるために声のする方へ足を向けると、驚いたことにすでにキョーコのまま村雨と仲良さそうに話をしている2人がいた。


自分の姿を想いだし、蓮は動きを止める。


この格好では・・最上さんに話しかけるすべがない・・


キョーコもそのことを知ってなのか、カインに気が付いて軽く会釈をする程度ですぐに村雨に視線を戻していた。
戻した視線が甘く艶めいて見えた気がして、蓮の心の奥からどす黒い塊が急速に成長し始めた。


「あ・・カインさん・・お疲れ様でした。」
村雨がキョーコの視線を追うようにカインに視線を向けて挨拶をする。
何事もなかったかのように二人の会話が進むのを見ると、どうにもできないほどの嫉妬に心が支配された。


恋人になったばかりの二人から視線が離せずに蓮はその場を去ろうと無表情のままキョーコに視線を向けていると、村雨がキョーコの頬に手を伸ばした。


そんな村雨の行動を黙ってみていることができず蓮は勢いよく2人の間に立ちはだかった。



愛しいい少女と村雨がキスをする瞬間を目の当たりにして・・黙っていられるわけがない・・



*


「・・・・兄さん・・兄さん・・?」


愛しい少女の声が遠くに聞こえる・・・・


勢いよく瞳を開くと目の前にセツが現れ、ひどく心配そうに覗き込んでいた。


「・・大丈夫?・・なんだかうなされていたみたいだけど・・?」
言われた意味が分からず、蓮はじっとキョーコを見つめかえした。いつの間にかベッドの上で仮眠をとっていたらし。目の前に現れた愛しい少女に自然と手が伸びる。


さっきまで心の大半を占めていた黒い塊が見る見る浄化されていく気がして蓮は少しだけ表情を緩めた。


「・・・・あぁ・・夢を見ていた・・」


そう言ってキョーコの腰に手を伸ばすとそのまま抱き寄せて顔をうずめた。
あまりに突然の蓮の行動にキョーコは、ビックッと肩を震わせながらも黙ってそのまま立っていた。

捨て犬のように蓮がキョーコに身を寄せるのを見るとキョーコの心に愛しさが溢れ出す。


大きな蓮の背中を抱きしめるように撫ではじめると蓮が何かをつぶやくのが聞こえた。


「・・ありがとう・・」


その一言が嬉しくてキョーコは少しだけ腕に力を入れた。