今日の敦賀さんは・・先日会った時と全く違っていた。
社長が言うように紳士的で、とても優しい人だった。
私がこの間見た敦賀さんは・・いったい・・何だったんだろう?


食事が終わり後片付けを始めると、隣に並んで食器を片づけはじめてくれた。
気の利く会話に驚くほど紳士的な対応
こんな私でも女性扱いしてくださる素敵な人だった。


・・・・じゃ、この間の敦賀さんは・・

そんなことを考えているといつの間にか手の動きが止まっていた。
蓮がそれに気が付いてキョーコをじっと見ているが、キョーコはその視線に気が付かなかった。


「・・大丈夫?最上さん・・・・具合が悪い?」


「え?・・あ、すみません・・ちょっと考え事をしていました。」


「そう、仕事とはいえこんな遅い時間まで付きあわせてしまってごめんね?帰りは車で送らせてもらうよ・・」


「いえ、そんな!とんでもないです・・まだ、終電もありますし、その・・一人で帰れますから・・」


「いや、そんな疲れた顔の女性を一人で返せないよ。」


「あの・・本当に大丈夫です。・・その片づけも終わりましたので帰らせていただきますね?」
そう言うと逃げるようにキョーコは玄関に向かった。
あまりに素早い行動に蓮は驚いてキョーコの腕を掴む。


「いやぁっ!」


キョーコの拒絶に蓮がびっくりして手を離すと、キョーコはポロポロと泣き始めた。
昨夜の出来事が急に頭をよこぎり、キョーコは自分を抱きしめるように小さくなると蓮に視線を向けた。


「あ・・その・・あ、あの・・ごめんなさい・・びっくりして・・」
女性にここまで拒絶されたことがなかったため、蓮は驚いて動けないでいた。


「お、俺こそゴメン。・・そんなに驚かせるつもりはなかったんだ・・」
そう言って蓮が申し訳なさそうに頭を下げると、キョーコは頭を横に振った。


「あ、あの・・遅くまですみませんでした。・・一人で帰れますので、・・それではここで失礼します。」
ドアを開けた瞬間に彼女の優しい甘い香りが鼻腔をくすぐった。


・・・え?・・・この香・・


香りとともに蘇る記憶があった。
震える彼女を押さえつけて、無理やりキスをしたことを今更ながら思い出した。


彼女が拒絶した意味を理解して蓮は急に息苦しくなった。



なぜ、都合よく忘れていたんだ・・



ズキズキと痛む胸が息苦しくて蓮はリビングに戻ると倒れこむようにソファーに横になった。