自宅に到着すると、なぜか柄にもなく緊張していることに気がついて、蓮は廊下を歩きながら、首を左右に倒してリラックスさせていた。
手にしていた鍵を握りなおしてドアを開けると、食欲をそそられるとても良い香りが部屋の隅々まで広がっていた。
その香りに自然と食欲もわいてくる。


帰宅するといつも感じていた孤独感は、なぜか不思議と訪れず、そのことにほっとして表情を和ませると、軽く一呼吸おいてリビングに入っていった。



キッチンでは楽しそうに鼻歌を歌いながら表情をころころ変えて、女性が料理を作っていた。
その様子を見ていると蓮の心まで楽しくなり、自室に向かうはずだった足は自然とキッチンで止まった。


「こんばんは・・・・最上キョーコさん?」
昨夜の失礼な態度のことをすっかり忘れ、蓮は柔らかい笑みを浮かべて優しく声をかけた。


その声を聞いてキョーコの楽しそうにしていた雰囲気はあっという間に消えうせ、営業スマイルとわかるような表面的な笑顔で、ニッコリと微笑んだ。


「はい、こんばんは敦賀様・・ごめんなさい。20時にお食事とうかがっていたので、もう少しお時間かかります。」

じっと見つめてきた視線は、記憶の中よりもさらに魅力的だった。


大きな茶色の瞳は表情豊かで、きめの細かい白い肌がさらに引き立てていた。
どっか懐かしい印象を受け蓮がじっと見つめていると、キョーコが少し困った顔をして視線を伏せた。


「いや、予定より早く帰宅した俺が悪いんだ・・気にしないで?」
彼女の表面的な笑顔に、焦燥感をうけ孤独の闇が押し寄せてくる。



・・ぁあ、俺が今まで見てきた彼女達の笑顔は、これに似ているんだ。



その事に気がつくと蓮は孤独を抱きしめるように自分を抱きしめ、彼女がさっきまで見せていた表情を思い浮かべながら、器用に動くその手をながめていた。