仕事の合間に横切る大きな茶色の瞳が蓮の集中力を途切れさせた。
今日何度目かわからないほどのため息をつくと、髪をかき上げながら外の景色を眺め、心を落ち着かせた。
気分転換になると思ったその行動は裏目となり、ガラスに反射した自分の冷たい瞳に再び印象的な茶色の瞳が重なった。
・・なんなんだ・・いったい・・
社と話をしてから、気が付けば彼女のことばかりを考えていた。
顔も覚えていないのに、なぜかその瞳が頭から離れず、集中していない間その茶色の大きな瞳に囚われていた。
普段なら絶対に起こりえないことがもう一つある。
ミーティングが終ってから俺は何度時計を見ているのか・・・・
認めたくないが、彼女の作る夕食を心なしか楽しみにしている自分がいた。
「・・・・ふぅ・・。」
「なんだ、蓮・・ずいぶん色っぽいため息をつくな?・・というか今日はどうかしたのか?お前のその色気たっぷりのため息のせいで、女子社員が落ち着かないだろう?」
「クス、面白い冗談ですね・・」
「冗談だったらわざわざ社長室まで来ないよ・・今日は少し早めに帰宅したらどうだ?それとも・・その原因を聞いたほうが良いのか?・・・・それとも・・いつもみたいに素敵な彼女たちに慰めてもらうか・・?」
社の言葉に蓮は眉間に皺をよせた。
「その、彼女たち・・って言い方・・やめてくださいよ・・。まるで浮気しているみたいじゃないですか・・・・」
「大して変わらないだろう?・・お前が本気じゃないだけで、彼女たちは本気なんだから。お前が付き合うのを希望しないから、彼女たちはおとなしく従っているだけだろ?お前が一言付き合ってほしいって言えば、喜んでOK の返事をくれるだろうな・・・・いいかげん一人にしたらどうだ?」
「ずいぶんな言われようですね・・一人にしても結局長く続かないので、こんな状況になったんです。」
「ふぅ~ん・・で、俺に何を隠しているんだ?・・もしかして・・・・本気で恋煩か?」
「恋煩いね・・それって、どんな感じですか?」
社は蓮のその質問に呆れたようにため息をつくと先を続けた。
「そうだな・・・・今のお前みたいな感じだよ・・氷の美貌と称されている社長殿」
社が面白そうなものを見るような目で蓮を見ると蓮は、驚いて瞳を丸くした。