苦い銭、鑑賞してきました。

 

うーん、一人で行ってよかった・・・

 

これ、女性とデートで行ってたらかなりきわどかった。

 

結構、事故だったかもしれません。

 

内容は、結局は全編通して、ほぼ中国の縫製工場で働く人たちの人間ドラマでした。

 

正確には、縫製工場で働く人たちと仲の悪い夫婦とその取り巻きかな。

 

ただ、ヴェネチア映画際で異例とも言えるドキュメンタリーなのに脚本賞を受賞が示す通り、なんとなくストーリー的なものも感じられて個人的には大満足です。

 

映画の前半はワンショットの長回しが随所にあって、正直退屈な人にはしごく退屈に感じられるかもしれないんで、そこらへんが我慢できる人には楽しめるかな。

 

香港にいた頃、友人のTがよく広州の工場に行ってて、そのときにいつもまずは香港に入って僕の家に荷物などを置いて、それから一緒に広州の工場を回ったりしてました。

 

Tはデザイナーさんというよりも、芸術関係のアーティストさんとの仕事を中心にやっているんだけど、ファッションのデザイナーさんならまだしも、製造業、特に中国での製造業について全く関係のないアーティストさんの理想を実現させる為に動いているので、正直『これは絶対不可能でしょ?』みたいなリクエストとかもあるわけで。

 

実際、受けてるプロジェクトの半数以上が実現不可能でポシャるわけでストレスの溜まる場面が多いんだけど、とある工場であるときは僕が何の気なしにフと

 

『その人たち(アーティストさん)を一回工場に連れてきたら?そしたら、この現状がわかるんじゃない?』

 

と。

 

そしたらTの答えが予想外に意外で、とても印象的でした。

 

『いや、彼らはこの現状は見なくていいんです。この現状や工場で働く人たちの給料や貧しさを知っちゃったら同情が入って、彼らが本当にやりたいことを言わなくなって、実現しそうなアイデアしか出てこなくなるかもしれないんで、彼らは(恵まれた)日本にいてなーんも知らないで、アレやれ!コレやれ!って言ってくれた方がいいんです。』

 

って。

 

この一言は、衝撃でした。

 

この考えが正解なのかどうか分からないけど、なるほど・・・と思ったよ。

 

例えば、別の話だと、仕事上で『30%仕入れ値を下げてくれ』って交渉を頼まれることがあります。

 

僕らのような小売業以外でも、例えば飲食業とかでもさ、基本『もの』が作られてそれを最終の川下で売る人たちは、仕入れ値の少なくとも倍以上の値段(小売価格)をつけて販売しています。

 

もちろん『いきなり!ステーキ』さんのようなハイパー原価率でも高回転で勝負するところもあるはあるけど、余程の例外だと思います。

 

なのでセールの時にはどこのお店もバンバン安くするように、30%小売価格を下げても小売屋さんは理論上は『粗利』はでるんです。

 

ただ、この『30%オフ』は製造業という川を川上に上れば上るほど、僕らのような川下の小売の人たちが思っている『30%オフ』以上の強烈なインパクトで、もはや死活問題です。

 

この『苦い銭』の劇中でも、洋服の工場が売る値段が出てくるんだけど、もはや200円以下の戦いです。

 

そんな彼らにとっての『30%オフ』というのは、正直ちょっと胸が痛みます。

 

僕は個人的には、声を大にして『フェア・トレード(公正取引)』を推奨したいわけでも全くないんだけど、流石にどっかで線引きってのは・・・ねぇ・・・と。

 

こういうときに、前述のTの一言が頭をよぎります。

 

自分たちにとって、第一に考えなければいけないのは僕らにとってのお客さんに少しでも安く商品を提供することなんだろうか?・・・って。

 

多分、そうなんだろうけど・・・。

 

まぁ、少なくとも色々考えさせれるきっかけになる映画だとは思います。

 

中国で製造されたものを扱って商売してる人が見た方がいいかどうかは、それは僕がいうことではないかもだけど、個人的には一人の人間としては、隣の国でこういう現状からいろいろな『もの』が作られているってのは見て欲しいかなとは思います。

 

ただ、ちょっと逆説的なんだけど、このドキュメンタリーを撮った監督のすごいところというか力量なのは、この映画からは『フェア・トレード』のような説教地味た啓蒙的なメッセージは、僕は全然感じませんでした。

 

淡々とリアルを写しだしてる感じ。

 

一見、こういうドキュメンタリーの作品の場合、カメラを回してる人は空気のような存在になってあたかもそこにいないような状況で撮り切った作品が良い作品のような感があるんだけど、この作品中ではカメラを回してる監督が、確実に『そこ』にいることを周りの人は分かっています。

 

ただ、言葉で説明するのが難しいけど、その存在の仕方が『空気のような無』ではなく、『空気のように自然』なのが、この監督がドキュメンタリー監督として名監督と言われる所以なのかもしれません。

 

最後にもう一歩踏み込んで書くと。

 

この映画、ドキュメンタリーという作品なんです。

 

更に現代の今でも書籍だなんだを余裕で発禁処置を取る中国です。

 

何が言いたいかって、劇中の工場の環境なんかより全然劣悪な工場は中国全土にゴマンとあるんだけど、作品として成り立たせるギリギリの際のラインを僕らに見せているのが、この作品なんだろうなって勝手に深読みしたりして・・・。

 

・・・・。

 

自分でも、分かりはしてるんだけどね。

 

こうやってほとんどの人が見たことない映画について熱く語るのって、俺通信と50歩100歩だってこと・・・。

 

おやすみなさい。

 

夜聊结束。

 

 

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