センスがいい
「多く『「夫』は彼の妻の肉体の形状について、恐らくは巨細にわたって、
足の裏の皺の数までも知り尽くしていることであろう。ところが僕の妻は
今まで僕に決して見せてくれなかった。情事のトキに自然部分的にところ
どころを見たことはあるけれども、それも上半身の一部に限られていたの
であった。情事に必要のないところは絶対に見せてくれなかった。僕はた
だ手で触って見てその形状を想像し、相当素晴らしい肉体の持ち主である
と考えていたのであって、それ故にこそ白光の下に曝してみたいという念
願を抱いた訳であったが、さてその結果は僕の期待を裏切らなかったのみ
ならず、寧ろ遙かにそれ以上であった。
僕は結婚後始めて、自分の妻に全裸体を、その全身像の姿に於いて見たの
である。彼女は明治44年生まれであるから、今日の青年女子のような西
洋人臭い体格ではない。(中略)たとえばその胸部は薄く、乳と臀部の発
達は不十分で、足もしなやかに長いのは長いけれども、下腿部がややO型
に外側へ湾曲しており、遺憾ながら真っ直ぐとは云いにくい。殊に足首の
ところが十分に細く括れていないのが欠点であるけれども、僕はあまりに
西洋人臭いすらりとした脚よりも、
いくらか昔の日本婦人式の脚、
私の母だとか叔母だとか云う人の歪んだ脚を思い出させる脚の方が懐かしくて好きだ。
のっぺらぽうに棒のように真っ直ぐなのは曲がらなさ過ぎる。胸部や臀部
もあまり発達しすぎるたのよりは中尊寺の本尊のようにほんの微かに盛り
上がりを見せている程度のが好きだ。」
谷崎潤一郎 『鍵』より
わたしは、自分がO脚だということもあるが、
やはり、あしは真っ直ぐ のほうが好きだ
あしからず