文庫本 | 蓼食う虫も好き好き

蓼食う虫も好き好き

自分が何科のなんという虫かはわかりませんが、時々見つけた蓼を齧ってみたいと思います




   岩手でのピンチヒッターの仕事を無事終え、さて東京へ帰ることにした。

   本当はせっかくなので平泉は中尊寺でも訪ねたかったのであるが、

   それには時間が中途半端だった。




     



   

   やまびこ63号の乗車券を購入し、発車までの20分程をホームで潰すことにした。



   ちょっくら喉を湿らすかと思い自販でカンコーヒーを買い喫煙所で一服つけた。



   アナウンスが流れやまびこ63号が入線してきた。




   喫煙所は4号車の停車位置辺りだった。



   わたしは8号車だったので、そこへ向かいながら席番号の確認をしようと文庫本をめくった。





     目   んっ、そこにあるはずのものが、無い。




        えっ   乗車券が無い。




           ガーン   12、480円の乗車券が無い、のだ。





   もうやまびこ63号は発車間近だ。 探している暇は無い。



   ちょうどそこにJR東日本の職員がいた。




   『あの、乗車券なくしちまったんですけど』



   『とりあえず乗っちまってください』




   で、え~いままよと乗車口に飛び込んだ。



  

   やまびこ63号は発車した。

   8号車には間違いなかったので、とりあえず目についた空席に腰をおろした。



   水沢江刺駅で込み具合を確認した時には席に余裕があった。



   このまま誰も来なければここでいいや、と思ったのも束の間、



   次の一ノ関ではやくもその席の正規の乗客が乗ってきた。



   他にも空席はあったのだが、荷物もあるので繰り返しがメンドクサイ。



   わたしは意を決して車掌に掛け合うことにした。






   『乗った分払ってもらうことになっております。1年以内に乗車券が出てきたときにはお返しします。』



   車掌はこともなくそうのたまった。



   冗談じゃない、領収書もあるし、水沢江刺でとりあえず乗っちまってくださいと言われたのだ。


  

   暫しのやりとりのあと、



   『納得できましぇん。水沢江刺に確認してくだしゃい。』 



   とつっぱった。


   『わかりました。きいてみます。』 と、確実な空席をわたしにあてがってから



   車掌は引き下がった。





   せっかくの新幹線のシートも居心地の悪いものとなった。



   しかし、はじめはとりつくしまもないと思われた車掌も、



   『ご購入されたのはどちらですか』 とか、



   『なくされたのは大体どこらへんか見当つきますか』 とか、



   『現金でのご購入ですか』 とか、通常業務をこなしつつ合間を見て聞きにきてくれて



   一応ちゃんと問い合わせてくれているようだ。




   そうはいってもやはり気もそぞろ、文庫本を開いてはみたが身が入らない。

   寝ようと思っても寝られない。




    




   仙台を過ぎ、福島が過ぎ、郡山が過ぎ去った。



   乗車してから1時間20分が過ぎたころだ。



   あ~あ罰があたったわ、おらが悪かった、とあきらめていたところへ



   インパルスの堤下にそっくりな車掌がきてこう言った。



   『お客様水沢江刺で乗車券が確認されました。ただ今証明書を持って参りますのでお待ちください。』



     ひらめき電球 ホッ  救われた  安堵の溜息が心の中で漏れた



   5分後、その旨記された業務連絡書なるものがわたしに届けられた。




   これが昨日の記事にあるトラブルの一部始終です。





  

      本日の教訓



      文庫本なんぞに大事なもんを挟むな