『ローマの休日』 加筆あり | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

2023年に初めて見た映画は、NHKBS4Kの『ローマの休日』です。何回見たかわからないのに、ついまた見てします。愛しいグレゴリーさん。でも、いつも気になるのは、映画が終わった後にキャスティングがオードリーが先に来ること。これは、グレゴリーさん主演の映画であり、オードリーはイントロデューシング扱いなんですよね。本当は、ポスターに名前も載らなかったんだけれど、グレゴリーさんが載せてあげて、とひと言言って名前が載っかったという。グレゴリーさんとオードリーは、この後も友情が続き、オードリーがスイスレマン湖のほとりに静養に行く時は、自らのジェット機を貸してあげたそうです。

 

ROMAN HOLIDAY

1953年アメリカ映画  パラマウント
白黒  118分  
監督 ウィリアム・ワイラー
出演 グレゴリー・ペック オードリー・ヘプバーン エディ・アルバート

 

ヨーロッパの小国の王女アン(オードリー・ヘップバーン)はヨーロッパ各国歴訪中、過密で自由のないスケジュールに嫌気が差してローマ滞在中にこっそり一人抜け出します。夜の街で眠気に襲われた彼女を家に泊めたのはアメリカの新聞記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)。ところがジョーは翌朝の新聞を見てびっくり。急病が伝えられるアン王女は、彼が昨夜泊めた女性だったのです。特ダネを逃したくないジョーは、彼女が誰だか知らない振りをしてアンのローマ観光に一日つき合うことになるのですが・・・。


オードリー・ヘプバーンの本格的なデビュー作、そして恋愛映画のバイブルとしてあまりに有名な作品です。
何不自由ないはずの王女様にも、実は不満がいっぱい。分刻みのスケジュールに、いつもニコニコ愛想良く差し障りのないことばかり言っていなくてはいけない。そんながんじがらめの生活に嫌気が差したアンが、一人街へ逃げ出して色々な体験をするだけでなく、ほのかなロマンスも。おまけにその相手は、特ダネを狙っている新聞記者。映画として楽しめるほとんど全てのエキスが揃ったこの作品、名作の誉れを受けるのも当然でしょう。

やっぱりオードリー・ヘプバーンの新鮮さがこの映画の成功の最大要因なのは間違いがないでしょう。凛とした王女様姿も似合えば、街に出て初めての様々な体験にいちいち喜ぶ仕草はとても可愛い。お金など持ったことのない彼女が、初めて美容院に入り髪を切り、アイスクリームを食べる。鏡に映った自分に喜ぶ姿、花屋さんとのやり取り、ジェラートを頬張る姿、その一つ一つに、観客はアンと一緒に初めてローマで遊んでいる気分にさせられます。
彼女が街でまず行ったところは美容院でした。長い髪をバッサリ切るということは普通の女性でも結構勇気のいることなのですが、アンの場合は短くなった髪が彼女の手に入れた自由を象徴しているように思われます。鏡に映った自分ににっこりした後、アンはやっと真の自由を楽しみに出ていくのです。髪型も可愛いし、少しめくり挙げたブラウスの袖やウェストの締まったスカートなど、何気ないけれどしゃれているファッションも素敵です。

一方のジョー・ブラッドリー。アメリカの新聞社のローマ特派員、と言えば聞こえは良いのですが、社での扱い、狭いアパート、乏しいお財布などを見る限りはうだつの挙がらない記者のようです。特ダネ捜しは新聞記者の義務であり特権なのですが、その特ダネが向こうからやってきたとなっては眠っていたジャーナリスト魂がムズムズ動き出しても仕方がないでしょう。何よりも大金がかかっているのですから。
身分を隠したジョーとカメラマンのアーヴィングは、アンのお供をして観光に出かけます。行く先々で、アーヴィングはライター型カメラでアンをパシャパシャ隠し撮り。ところが、肝心のジョーは、何だかアンと良いムードに。根っから純粋で疑うことの知らないアンに関わるうちに、どちらかと言えばかなり擦れていたはずのジョーの心も何だか洗われていくようです。

当時既に大スターだったグレゴリー・ペックが、新人のオードリーを迎えての映画でしたが、出しゃばるところなくいつも彼女を後ろで見守っている様が彼のスケールの大きな人柄を忍ばせています。彼の大ファンとしては、これがオードリー映画として語られることの多いのは不満なのですが、まあ新人を受け入れるのもスターの懐の深さか、と無理に納得(笑)。
でも、やっぱりラストシーンは背の高い彼ならではの映え方だったと思います。あまりラストについて語れないのが残念。

身分違いの結ばれぬ恋というのは、昔から人気のあるテーマです。愛したとしてもどうなるものでもない相手。それでも感情はままならぬもの。泣きも(一筋の涙は別として)わめきもせずにあっさりと自分の世界に帰っていく彼らのその心情を考えると、逆にこの押さえた演出こそが切なさを募らせます。

主役二人にいつも話題を独占されるけれど、カメラマン役のエディ・アルバートもユーモアを交えた良い演技でした。いつも飲み物をこぼされたり、足を引っかけられたりで散々な目に遭った挙げ句ゲットした特ダネ。でも・・・。きっと彼こそは(もしかしたら、自分の都合でコロコロ変わるブラッドリーよりも?)良い人なんだろうな、って思いますね。

映画音楽としての知名度は低いかもしれないけれど、このテーマ音楽もとても好きです。

 

 

さらに加筆です。

この映画では、イアン・マクレラン・ハンターがアカデミー原案賞を授賞しています。実は、これは、『ジョニーは戦場へ行った』などで知られるダルトン・トランボの別名です。ダルトン・トランボと言えば、40年代にハリウッドに沸き起こった赤狩りマッカーシズムに反対したハリウッド10の一人だったのです。そのために、トランボは、実名で脚本を書けなくなりました。ですから、『ローマの休日』も別名を使ったのです。93年、トランボ死後に、改めて『ローマの休日』の原案賞が、ダルトン・トランボに贈られました。

 

この経緯を考えて、『ローマの休日』でアン王女が、ヨーロッパ歴訪をするのは、戦後処理の一環だと主張する人がいます。アン王女の国が連合国だったのか、枢軸国だったか、あるいは中立だったのかはわかりませんが、イタリアが枢軸国だったことを考えると、枢軸国ではなかったでしょう。アン王女は、戦後のヨーロッパの平和の象徴だったのかもしれません。

 

 

 

トレイラーです。