『ブルックリン横丁』 | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

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A TREE GROWS IN BROOKLYN

1945年アメリカ映画 白黒 20世紀フォックス 128分

監督 エリア・カザン

出演 ドロシー・マクガイア ジェームズ・ダン ジョーン・ブロンデル ペギー・アン・ガーナー ロイド・ノーラン テッド・ドナルドソン



ノーラン一家は、ブルックリンの質素なアパートで暮らしている。しっかり者の母親ケイティ(ドロシー・マクガイア)は、掃除婦として働き、陽気な夫のジョニー・ノーラン(ジェームズ・ダン)は、「歌うウェイター」をしている。子供はふたり。フランシー(ペギー・アン・ガーナー)とニーリー(テッド・ドナルドソン)だ。ふたりは、鉄くずを集めて小遣いにしている。姉のフランシーは、勉強が好きで、図書館で借りて沢山の本に接している。フランシーは、明るく優しい父が大好きだった。しかし、ケイティは、夫が酒好きで、ちょっとお金が入ったら飲んでしまうこと、お金を儲ける才覚がないことを不満に思っていた。今通っている学校に不満を持つフランシーは、父を連れて憧れの学校を見せるが……。



劇作家、ベティ・スミスの自伝的小説をエリア・カザンが映画化した初監督作です。貧しいアイルランド移民一家の日常を、細やかに描きます。



一家の長女フランシーは、パパが大好きです。パパはとにかく陽気な人で、「歌うウェイター」という面白い仕事をしています。折しも披露宴のウェイターに抜擢され、沢山のお土産を貰ってきてくれます。パパは、面白いだけでなく、とても優しい人。フランシーにとって、最愛の人でした。でも、そんなパパには、大きな欠点がありました。お酒が大好きなのです。家でちょびちょび飲んでいる程度ではなく、外で大っぴらに飲んでくるので、家にはいつも生活費が足りません。その分を、母親が掃除婦をして稼ぎますが、夫の無責任な行動や、家の貧しさに、いつしか母親のケイティの心は、凍り付いたようになってしまいます。子供たちが大好きな、陽気な姉のシシー(ジョーン・ブロンデル)に、子供たちに悪い影響を与えるので、もう来ないで、とまで言ってしまいます。貧しくても幸せな生活、などと言いますが、本当に貧しければ、心も荒れると思います。だから、ケイティの気持ちって、あまりに無愛想とは思いつつ、理解できるんですね。



一方、能天気の夫ジョニーは、家に帰ってくると、まるでパーティみたいな大騒ぎ。フランシーは、ジョニーが帰ってくると、くっついて離れません。唯一、冷めているのが妻のケイティ。ジョニーは、義姉のシシーからも愛されていて、人懐っこく、愛すべき人なんです。ただ、どうにも生活力がない。ただ、家族のためには一生懸命になる人なんです。フランシーに、アイルランドでは子供は親を追い抜けないが、自由の国アメリカでは、自由に道を進めるんだ、と説くジョニー。フランシーの作文の能力を、高く買っています。



フランシーを演じるペギー・アン・ガーナーは、当時の名子役です。パパが大好きで、勉強が大好きで、貧しさにも負けない良い子を、清々しく演じています。彼女は、本が大好きで、図書館で本を借りているのですが、著者目録のAから読み始めているのです。遂に、著者目録がBに入ったのですが、それは、非常に難しそうな本。このくだりは、素敵でした。ペギー・アン・ガーナーは、とても好演しています。



ちょっと素っ頓狂で、男好きの伯母さん役のジョーン・ブロンデルも好演しています。この作品は、ドロシー・マクガイアも、ジェームズ・ダンも非常に好演しています。特に、ジェームズ・ダンの愛すべきダメ男ぶりは必見。彼がピアノを弾きながら歌う「アニー・ローリー」は、聞いていて涙が出ます。



貧しい時代だっただけに、庶民の生活も苦しいもので、それでも何とか生きていく人々の姿がまぶしいぐらいです。この時代の、家族映画には、優れたものが多いです。是非、見ていただきたい傑作です。



ワンシーンです。