『ペコロスの母に会いに行く』 | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

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2013年日本映画 カラー 113分

監督 森崎東

出演 岩松了 赤木春恵 原田貴和子 加瀬亮 竹中直人 大和田健介 松本若菜 温水洋一 佐々木すみ江 根岸季衣 穂積隆信 島かおり 原田知世


売れないマンガ家のゆういち(岩松了)は、離婚して大きな息子を連れて故郷の長崎に戻ってきた。母のみつえ(赤木春恵)は、夫と死別して以来、認知症が進んでいた。ゆういちは、ひとりで母の面倒を見るが、大変な日々だった。そんな時、ケアマネージャーの勧めもあり、ゆういちは悩んだ末にみつえを介護施設へ預けることにする。ゆういちは、せっせと母に会いに行く。ホームには、個性豊かな面々が揃っており、訪問に来るのも個性豊かな面々。そんな中で、みつえは、段々若い頃へと記憶が戻っていくのだったが……。



ゆういちは、音楽をやり、マンガを描きながら、サラリーマンになりました。で、ひとかどの人物になったかというと、どれも中途半端。離婚して長崎の実家に戻りましたが、冴えない毎日を送っています。実家の母は、認知症が進んでおり、ゆういちは介護で大変な日々も送っています。


ゆういちは、ペコロスと呼ばれています。ペコロスとは、小さい玉ねぎのこと。つまり、ゆういちの頭はペコロスなのです。でも、このペコロスが、やがて役に立ちます。



周囲の勧めもあって、ゆういちは、母を介護施設、グループホームに入れます。施設の人は、皆熱心で親切なのですが、母はそこになじめません。ゆういちは、毎日のように通います。やがて、母は、ゆういちのこともわからなくなってしまいます。ゆういちが帽子をかぶって現れると、「知らない人が来た!」と大騒ぎになります。そこで、帽子を脱いで、ペコロスの部分を見せると、母はゆういちを息子として認識して、ペコロスをペンペンと叩くのです。このやりとりが、微笑ましく、同時に切ない。ペコロス=息子として認識して貰えるだけでも、ゆういちはまだいいのかもしれません。



この作品は、現代だけを描くのではなく、母の子供の頃、若い頃、結婚してからのこと、と時間軸を遡って、現代と並行して描いていきます。母の記憶は、現代を離れ、どんどん若い頃に戻っていくからでしょう。この描き方が秀逸です。戦中、戦後を生きた母だけに、苦労も多かったのです。



グループホームには、実に様々な人がいます。認知症の人がほとんど。女学生時代に戻って級長さんに戻っている人。飴を貰いに来る人。原爆で亡くなった小さな妹を背負っているつもりの人。私の好きな佐々木すみ江は、女学生時代の級長さんに戻っている人ですが、何かと「先生」に報告に行くのです。しっかりした級長さんだったのでしょうね。他にも個性的な脇役が揃っています。赤木春恵の妹役で、島かおりが出ているのも嬉しかったです。久しぶりの島さん。子供時代、彼女は昼ドラで多くの主演作を持っていて、私はそれらを見ていました。『二十四の瞳』の大石先生というと、実は私は、真っ先に島かおりを思い出すのです。



そんなに肩に力を入れないで、認知症に向き合っていこうよ、という映画です。寧ろ、笑い飛ばしています。それでいて、テーマがテーマですから、切ない。高齢の親御さんがいる方だったら、身につまされる話だと思います。



予告編です。