『さすらいの航海』 | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

さすらいの航海 [VHS]/ビクターエンタテインメント



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yti334 洋画映画チラシ「さすらいの航海 」キャサリン・ロス フェイ・ダナウェイ/東和松竹ユナイト



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VOYAGE OF THE DAMNED


1976年イギリス・スペイン映画  カラー


監督 スチュアート・ローゼンバーグ


出演 フェイ・ダナウェイ オスカー・ウェルナー マックス・フォン・シドー リー・グラント サム・ワナメイカー マルコム・マクダウェル リン・フレデリック 他


 




1939年5月13日、ハンブルク港を豪華客船セントルイス号が出港する。乗客は、937人のユダヤ人たち。行先は、キューバのハバナだった。シュローダー船長(マックス・フォン・シドー)はじめ乗組員はドイツ人だった。その中には、ハバナ局長と接触することが任務である、ナチスの諜報部員オットー・シーンディック(ヘルムート・グリーム)も含まれていた。乗客は、エゴン・クライスラー医学教授(オスカー・ウェルナー)と妻のデニス(フェイ・ダナウェイ)、元弁護士で、ゲシュタポに追われていたカール・ローゼン(サム・ワナメイカー)と妻のリリー(リー・グラント)、娘のアンナ(リン・フレドリック)などがいた。船内では、豪華なパーティが開かれ、人々はハバナに到着することを心待ちにしていたのだが……。




史実に基づく物語を、オールスターキャストで映画化した大作です。何故、この時代に、ドイツがユダヤ人をハバナに行かせることを許したのか。それは、カムフラージュのためでした。世界にドイツの人道主義を見せつけるために、ユダヤ人に自由を与えたのです。




乗客の中には、強制収容所にいた人もいます。ドイツにいれば、強制収容所に入れられる。乗客たちがつかんだ船の切符は、生きるための切符でもありました。




客船の生活は、実に豪華です。特に、一等客室の人たちは、毎日ドレスアップしてディナーを食べ、ダンスを踊り、仮装舞踏会まであります。彼らはその生活を楽しみますが、心の中には様々な思いを抱えていました。




とにかく、キャストが豪華です。上記以外にも、マリア・シェル、ジュリー・ハリス、ウェンディ・ヒラーなどの乗客たち。オーソン・ウェルズ、ジェームズ・メイスン、ホセ・フェラーなど政府系の人たち。他にも、キャサリン・ロスやベン・ギャザラなど。豪華キャストを配したグランドホテル形式のドラマであり、70年代そのものであり、もしかしたらこういう形式の最後を飾った一本かもしれません。




ドイツ人でありながら、ユダヤ人たちの航海を任されたマックス・フォン・シドーの、確固とした信念もいいです。もっと凄かったのは、リー・グラント。狂気の熱演でした。その娘役のリン・フレデリックが、荒野に咲いたたった一本の白い花のように、清楚で可愛いですね。そんな彼女が惹かれていくのがマルコム・マクダウェルで、ああ、そんな、お嬢さん、危ない!と思ってしまいます。




彼らは、生きるための切符を手にしているのに、大国や腐敗した役人のエゴのために、振り回され続けます。ユダヤ人の虐殺は、勿論ドイツが悪いのですが、もしかしたら、こうしたエゴで固まったまま見て見ぬ振りをしていた国々、人々も多かったのではないか、と思ってしまいました。




豪華客船と綺麗なドレスに彩られた、悲痛な戦争映画です。




フランス版のトレイラーです。