失われた週末 [DVD] FRT-139/ファーストトレーディング

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THE LOST WEEKEND
1945年アメリカ映画 白黒 101分
監督 ビリー・ワイルダー
出演 レイ・ミランド ジェーン・ワイマン フィリップ・テリー ドリス・ダウリング ハワード・ダ・シルヴァ


 ドン・バーナムは、全く売れない作家。重度のアルコール依存症に陥り、兄の家に世話になっている。兄と恋人のヘレンの献身のお蔭で、もう酒は飲んでいない……ふりをしていたが、実は彼らの目を盗んでは酒を飲んでいたのだった。週末に兄と行くはずだった旅行を自分だけ取りやめ、ドンは酒を求めてさまよい歩く……。


 ビリー・ワイルダーの比較的初期の作品で、当時公に扱うことが躊躇されていたアルコール依存症という問題に真正面から挑んだ映画です。この年のアカデミー賞の、作品、監督、主演男優賞などを受賞しました。


 何が凄いって、とにかくお酒の力です。ドンは、兄の家に居候して生活の面倒を見て貰っていますが、もう飲んではいない、振りをしながら、酒をあおります。その酒瓶の隠し方ときたら……。いくら弟とは言っても、こんな男を養い続けるお兄さんは、もう神の粋です。

 もう一人、神の粋なのが、ドンの恋人ヘレン。 当時ロナルド・レーガン夫人だったジェーン・ワイマンが熱演しています。ドンがどれほど酷い状態にあっても、彼女は決して彼を見捨てないのです。彼の部屋の前で一晩中彼を待って、身体を張って尽くします。女神のように寛大な女性過ぎて、残念ながら共感は出来ません。私なら、絶対見捨てます。

 主演のレイ・ミランドは、この作品でオスカーを獲りました。体を張った迫真の演技です。お酒が欲しい彼は、ひとりになった途端、行きつけの酒場に走ります。しかし、酒場でも彼の依存症は知れており、必要以上の酒は売ってくれません。そして、何より、肝心のお金がありません。遂に彼は、作家の命であるタイプライターを手に、質屋に走ります。

 この作品は、「週末」を描くものです。「週末」であることが、ドンを奈落の底に突き落として行きます。酒が欲しい、酒が欲しい、酒が飲みたい!彼は自分が作家であることなどとっくに忘れています。自分を愛して守ってくれる兄がいることも忘れます。自分を愛し抜いてくれる恋人がいることも忘れます。彼の欲求は、とにかく酒が飲みたい!一瞬たりとも、お酒以外のことが考えられなくなっているのです。

 レイ・ミランドの演技は鬼気迫るものです。この映画が、彼の演技を覚醒させたようです。髪も服もよれよれ。どんな姿になろうとも、彼は知ったことではないのです。彼は、ただお酒のことしか考えていない。そのうちに、どんなことをしようとも、どんなに恥ずかしいことでも、彼はお酒のためなら、なんでもするようになるのです。その姿には、もはや人間としての尊厳は残っていません。お酒に酔っぱらって、ピンクの象が浮かんでいるのが見える……なんて生易しいものではないのです。

 アルコールに限らず、依存症とは大変なものとは聞きます。しかし、ここまでとは。昨今では特に、依存症を描くのは珍しいことではないですが、当時ここまで描き切ったワイルダーの力には感服します。

 この映画を観たら、絶対にお酒は飲みたくなくなるでしょう。


 トレイラーです。