言わずと知れた不朽の名作。1955年のアメリカ映画です。

 以下は、以前書いたレビューです。


 1949年イギリス統治下の香港。病院で勤務する女医ハン・スーインは、父親が中国人、母親がイギリス人で双方の考え方と文化を受け継いでいた。ある日のパーティで、スーインはアメリカ人特派員のマーク・エリオットと出会う。意気投合した二人は、逢瀬を重ねいつしか恋に落ちる。しかし、マークは別居中とはいえ妻のいる身。二人に対する世間の風当たりは決して快いものではなかった。マークは妻との離婚交渉に入り、スーインは結婚出来る日が来ることを待ち望む・・・。


 この映画を初めて見たのは中学生の時でした。はまりました。オープニングから、何とも麗しい音楽が流れるのにノックアウト。見る前から、このテーマ音楽は素晴らしいとは聞いていましたが、つくづく納得させられてしまったのでした。テーマ曲「LOVE IS A MANY-SPLENDORED THING」は映画音楽史上でも1、2を争う、名曲です。そして、この甘美なメロディが全編を彩っているんですね。何ともため息が出るメロドラマの王道を行く映画です。


 これは、実話です。ハン・スーインの自叙伝は昔文庫で出ていて、古本屋で見つけて喜んで買いました。ハン・スーインは戦争で夫を亡くして、医師の道一筋に生きている女性。そんな彼女が、もう2度としないだろうと思っていた恋をした。中国人の誇りを持つ彼女は、最初はちょっとツンとした感じさえするような誇り高き女性。でも、愛を知りどんどん心をほぐし笑顔を見せ、人生の楽しさを満喫するようになります。その過程をジェニファー・ジョーンズは見事に演じています。ちょっとエキゾチックな感じのする彼女ならではの役と言えるでしょう。彼女が着ている服も素敵。多くはチャイニーズドレスなのですが、ブルーを基調にした服が多く、とても似合っています。これはスタイルが良くないと着られませんよね。洋装の時のオレンジがかった赤いドレスにストールみたいなものを巻いている格好も素敵。いつも品があって知性的で、それでいて女性の魅力を大いに感じさせます。


 ウィリアム・ホールデン。この頃、やはり絶頂期でしたね。子供の頃はどうしてもこの人の顔と名前が一致しなかったのです(笑)。ハンサムなのだけれど、特徴がなくて。だから、ホールデンの出てくる映画が放映されると親に「ホールデンが出てきたら教えて!」と頼んで努力の結果覚えた人(笑)。勿論、今は十分に識別できます。で、このホールデン演じるマーク・エリオット。本当は既婚者なんですよね。だから、これは不倫ものになってしまうのです。いくら、別居中とはいえ妻帯者。全く男というのは・・・。ジェニファーとホールデンの立場から見ると何とも素敵なラブロマンスですが、ホールデンの奥さんの立場からすればたまらない話でしょうね。これも年と共に思うこと。


 でもまあ、この際そういった話は置いておきましょう。話が進まないから。

 二人の度重なる逢瀬のシーンはどれもとても素敵です。ボートの上のちょっと澄ましたジェニファー・ジョーンズ。海水浴でのシーン。岩場でのタバコの火のつけ合い。マカオでの束の間の幸せ。そして、何と言っても外せないのは、丘のシーンでしょう。スーインの勤める病院の近くにある丘で、よく二人は会うのですが、このシーンはどれもため息の出る美しさです。風景がまず素敵。眼下に広がるのは香港の海、多分夜には百万ドルの夜景と言われるそれなのでしょう。そして、丘の上で手を振るマークと走り寄るスーイン。マークの肩に止まる蝶々。慕情の丘にいつか行ってみたい、というのが子供の頃からの私の憧れでした。


  第2次大戦は終わったとはいえ、まだまだ激動の時代でした。中国は大きく変貌を遂げつつあります。中国とイギリス、二つの血を引くスーインは中国人として生きるか、外国人として生きるか、難しい問題に直面せねばなりません。そして、朝鮮半島では折しも戦争勃発・・・。マークは従軍記者として現地に向かい、二人はしばしの別れの時を過ごすことになります。ハン・スーインは、確固とした自己を築いた理知的で強い女性ではありますが、二つの戦争に大きく人生を翻弄されてしまいました。時代のうねりは、どんな強い人間をも呑み込まずにはいられない哀しさを感じずにはいられません。


 もう典型的なメロメロのメロドラマなんですが、やはり好きです。主演の二人がとても素敵だし、香港の風景もとても素敵。演出も小道具も凝っていて、いかにも昔の名画の格を示す作品です。ちょっとわざとらしくさえ感じる蝶々も、最後には泣ける・・・。


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