「ああ、こういうとこはヤバインダよなあ。」
経験からいって大体こういうとこは危ないのを知っている。いつも乗っている原チャリなら、なんも考えずに気楽に走れるけれど、車ではパッとよけれるような広い道ではナイ。しかもおまけに、今日は雪が降ったあとで、夜は路面も凍っていてスタッドレスタイヤなど装着していないこいつでは急ブレーキなんかしようものならつるっと滑ってあっという間に横の民家の塀につっこんでしまう。
ヘッドライトの先には夕方の買い物を終えて帰路につくおばさんらしき人が歩いている。
「きをつけよっと。」
俺は普段以上にアクセルペダルに神経を注いだ。アクセルは常に一定で。
左足は自然にブレーキペダルの上にノッている。昔ポンコツ車を転がしてた時に超狭い駐車場に入れるために体で覚えたテクニック。オートマでは特に、こういったスロースピードで運転する時使える。
アクセルとブレーキの絶妙なさじ加減が出来て、スピードは一定だけど即座にブレーキを利かすことができる。マニュアルではそうはいかない。クラッチ操作で左足はふさがってしまうからだ。そのかわり、左足でクリープさせながら右足でブレーキという逆の要領でおなじことができる。さらにうまい人になるとヒール&トゥーというつま先とかかとでブレーキとアクセルを同時にコントロールできるのだが、俺はそこまで出来ない。
クラッチレスのセミーオートマが主流のレースの世界では左足ブレーキはお約束なのであるが
そんなことを露知らず、俺はなんてことはないミニマムな超ギリギリの車庫入れで覚えたテクニックであった。
そのものすごく細い路地を通過してしまえばもうすぐ家だ。
壁とおばさんに挟まれたギリギリいっぱいの路地をゆっくりと走る。
そろそろおばさんを過ぎ去る、その時、ふと横目でちらっとサイドウインドを見るとおばさんは消えていた…
「んんんん?」
おかしいなあと僕は一瞬不安に思ってバックミラーをちら見する。
やはり、いない。
全身になぜか鳥肌が立ち、ハンドルを握る手にじんわりと汗がにじんできた。
絶対おかしい。
あそこは道幅がすごく狭く、しかも民家の塀がずーっと続いていて、すぐに横にそれて入れるようなものも一切ない。おばさんが万が一コケレばもちろん絶対轢いてしまい、その感触が車に伝わってくるはずだ。
それくらい狭くてどこにも消えるスペースなどナイような道なのである。
しかも、間違いなく、買い物袋をさげていたおばさんはそこを歩いていた。
でなければ、あのヘッドライトに照らされて映っていたものはいったいなんなんだろう…
そのあと記憶にほとんど残らないほど慌てていたが、なんとか無事に、
家のもう狭くはナイいたってふつーの車庫に駐車できた僕は考え続けていた。
「まあ、無事に帰れたからいいか…」
しかし、実はこれがすべての始まりであることを僕は全然知る由もない…
その日はフツーに夜がフケテいくのであった。