職場に行けば甘えん坊の後輩が、出来ない事を理由に、また俺に仕事を回すつもりだ。 出来ないわけないだろ、きっちり教えたじゃねぇか。しかも一度や二度じゃねぇぞ、教えてるのに出来ないのはお前の責任だろ?なのに、きっと明日も教えた事をすっかり忘れて、しれっと俺に仕事を回すつもりだろう。 ここは塾か?学校か?俺はお人よしの家庭教師か?
メモとれよ、メモ。逐一記録しろ。覚えられないならメモをとれ。キミが来てから何回も言ったはずだ。メモをとったら清書して毎日それに目を通せ。何か忘れても見れば全てを思い出す。思い出せば行動する。でも現実はどうだ?お前は何かを成し遂げたか?口酸っぱく忠告しても結局メモをとらないのは、いわゆる他人任せを画策してるのか?それでうまいこと世渡りしているつもりなのか? 賢人と愚かな人間の差は、同じ轍を踏むか踏まないか、だろう?そう思うだろう?

「叔父様」




「ん?」
「叔父様の中学生の頃って、悩みあった?」
「悩みかぁ・・・あったよ、そりゃもう中学生の頃なんて悩み盛りだからな。キミはどうだ?」
「何が?」
「悩みさ。例えば毛とか」
「セクハラよ」
「毛ぐらいいいじゃねぇか」
「うちのクラスじゃないんだけど、イジメにあってるコがいるの」
「スルーかよ」
「何とかしてあげられる?」
「何故キミがそれを心配するんだ?」
「イジメがあることを分かってて、何もしてあげられなかったから」
「・・・キミはそれが悔やまれる?」
「うん」
「残念だよね、でも、その気持ちがあれば今からでも何か出来ないか?」
「ソコよ、気持ちがあれば、って。みんなもそんなふうに言う。でもさ、あたしらの友達って『力になれれば』と思って何もしない人ばっかりなのね。だから、何かはたらき掛けるアクション起こせればいいかな、って。少しでも解決に向かうんじゃない?ってね。何か知恵を貸してよ」
「そうか・・・即効性のある知恵のうちに入るかどうか分からんが、例えば俺は日記をつけてるよ。一度書いて、うっかり忘れる、忘れた頃に紐解いて読んでみる。そんな事を繰り返すうち、いつ何処で誰が何を何した、なんかが全て鮮明によみがえるのさ」
「・・・日記?」
「つまらないことでいいんだ。メモみたいなものだ。でも、書いているうちに、自分のバランスの悪さ、弱点に気が付くし、他人の行動パターンも見える様になるよ」
「日記だなんて、夏休みの宿題みたい」
「記録する事は面倒な作業なんだ。でも、記録しないと人はどんどん忘れる。事実が事実でなくなる。俺は40歳でようやくそれに気が付いた。キミはいつ気が付くか分からないけど、日記は人生の宝だ。思い出は唯一無二の神の声だ。それを悟った人は皆、日記を大切に扱うよ。日記から色んな声を聞き出して、思い通りの未来を作ることが出来るんだ」
「日記を書いたら、そのコを救けてあげられるの?」
「そのコが受けたイジメの数々をアーカイブとして残しておけるだろう?それを読み返せば何かのイメージが湧くだろう?」