「ノリエガ将軍って、典江さんが、ある日突然、将軍様になってしまったみたいな感じよね」と言っていた女子スタッフの言葉が、昼間からずっと頭の中をループして離れないで、ホトホト困っている。


典江さんが将軍って・・・それはダジャレだろ。


典江さんが、どこの国の将軍様だ?あっちか?こっちか?


ぐるぐるとスタッフの言葉と俺の心の突っ込みが回転し、回転し、それはもう目にもとまらぬ高速回転で回転し、まるで俺は地球コマみたいに不可思議なフレキシブルな動きをする謎の生物みたいになった。残業しているこの夜中になっても、流れは止まる気配を見せない。


一人一殺。集中力に欠くと、いっぺんに敵になだれ込まれ、負けてしまう、なので、一人づつ確実に仕留めていかなければいけない、俺の仕事は、そんなことが求められる大切な仕事なのだ、量が多いのだ。多いだけでなく、クオリティも求められる。


一人一殺のはずが、女子スタッフの発した言葉「ノリエガ将軍」のおかげでペースはめちゃくちゃだ。俺のハートはもう仕事どころではなかったのだ。


太宰治の「トカトントン」は、きっとこんな感じの心境を反映した物語だったのだろうなあ、などと考える。


典江が将軍のほかに、太宰治までも俺の脳みそに侵入してきやがった。


今が仕事でなければ、どんなにか楽しいだろう。もう仕事なんてうっちゃって、モクモクと湧きいでる典江のことや太宰のことでも想像しながら気持ち良くユルユルになってやろうか。


典江、俺がバカだった、ゆるしておくれ!