うちのいいところはね、星空のバーがあるってことだ。
なんてことはない、俺んちは4階にあるんだけど、すぐ横に避難用の螺旋階段があってね、その踊り場で酒を飲むんだ。
毎晩、素晴らしいオリオンや、プレアデスを見ながらね、仕事のあとの一杯をやる。
オリオンの下には、東京タワーやスカイツリー、ひっそりと蜘蛛のようにへばりつく民家の、マンションの、つつましやかな光の粒子。
ここで、ガラムをふかしながら、ボウモアを飲りながら、一日の総括をキメるんだけど、総括だったはずが、いつの間にやら、些事を憂いてなんになる、あの夜のベルベットの触感や、オパール色の交錯する光を思い出せ、とばかり、思い出から生まれるモンスターとの脳内ダンスになっちまう。
それはそれで、なかなか。気持ちのいいもんだぜえ。
バーは大切な存在だ。バーの無い世界は、ありえない。
家と職場を往復するばかりの毎日でも、俺には、星空のバーがある。
だから、日々生きられる。