暗闇の中に光る、赤い光を見ていた。終列車のランプのような、遠い赤信号のような、妖艶な赤い光。凝視すると、赤い光の周辺に、青紫の別の光が見えてきた。これは、そこに青い光があるわけじゃなく、目の錯覚で反対色の青が出てきたものなのだ、ということは分かっていた。だけど、俺はそのとき、頭で理解するものじゃない何かを一瞬、思い出したのだ。何を思い出したのか、つぎの一瞬できれいに忘れたけど、味覚のようなもの、嗅覚のようなもの、昔、ある感傷があって、そのときの味わいが、うっかり再現されたのだと思う。その感傷が、何だったのか、今となっては、もうまったくわからない。「さようなら」の残滓なのか。その「さようなら」の向こう側は何だったのか。追いかけたい衝動が、また俺をして、暗闇の中に光る、赤い光を凝視させる。