青空が何となく紫色に見えるのは、黒点の増減により太陽の発する光に若干の変化があったからだろう、と妙な理屈を一人合点して空を見あげながら右手に案内ボード、左手にコカコーラ。
本当は太陽にあたりすぎで、目の細胞の色彩感覚をつかさどる部位がおかしくなったとか、そんなところじゃないか。
日給2万円。
新築住宅を案内するボードを持って交差点にただ立っているだけの、単純どころか、まるで何もしないのと変わらないことで2万円ももらえるなら、こんなに楽な商売はないと飛びついた。
けど、やってみると意外と苦しい。何が苦しいったって、退屈がこたえる。10時から16時までの6時間だぜ?6時間、俺はマネキンだ。
盆の時期、車通りは少なく、こうやってボードを出したところで、見る人がいなければ意味のない行為だ。意味のない事で2万円儲ける。
アスファルトは白く、逃げ水はいつまでも向こう側にゆらゆらしていた。遠くからやってくる車のタイヤと逃げ水が合体し、うごうごする謎の生物に見えた。
はたして、このクソ暑い日に、新築住宅は売れるのだろうか、いや、売れるとか売れないとか自分には全く関係ないのだから、考えなくてもいいものを、何かしら考えていないと、暑さよりも退屈がもとで死んでしまいそうだった。
金勘定でもするか。
土日の二日間で4万円、1か月16万円。8日間の稼ぎとしては悪くない。
残りの22日のうち、16日を日給1万円の引越し屋の力仕事して、週に一回寝坊しながらビールを飲んで、俺の稼ぎは月32万円++。(++は引越し屋でたまーに出るご祝儀)
この生活を、あと1か月も過ごしたら、このシケた日本とはおさらばして、逃げ行く夏を、海の向こうの向こう側へ追いつめるんだぜ。
なあ、夏が短いなんて、誰が決めたんだ?夏が無いなら、夏がある場所に行けばいいのだ。
掛け値なしの贅沢を、遠い遠い南の島で、イカした連中と過ごすのだ。金が無くなるまで遊ぶのだ。そして、金が無くなったらまた日本で案内ボードを持って突っ立ってればいいやさ。
遠い遠い南の島は物価が安いんだぜ?この数カ月の稼ぎがあれば、最低1年はビールを飲んで、奇麗なねえちゃんたちと遊んで、適当に波乱万丈な毎日を過ごせるだろう。
ボードを持つことで俺は俺の人生をバラ色に染めることが出来るんだから、そりゃ何年だっていくつになったって喜んで交差点に立つよ。