恵比寿の雑居ビルの地下二階の重たい扉の先に、行きなれたクラブがあったはずなのに、無い。確か先週末にはちょっとしたパーティがあって、大盛り上がりに盛り上がっていた筈だ。看板には見知らぬ店名が書かれていて、それだってもう何年も使い古された様な看板だったし、店の名前だった。
しのぶ、と言う店だった。
信じ難い事だが、この一週間のあいだに別の店だか何だかになっていて、俺の知るものではなくなっていた。いつもの調子で勢い良く入ってしまった手前、簡単に出て行くのもかっこ悪く、というより、行きつけのクラブが突如として「しのぶ」になってしまった興味から、店内の様子をうかがう事にした。内装を取り替えたばかりで、店としては新しい筈なのに、いたるところに剥げ落ちのあるくたびれた壁紙だかペンキだかが経年劣化のさびた感じを表現していた。ひょっとしたら俺の知らない間に、何年もの月日が経ってしまったのではないか。くたびれた感じの内装は、まるで冷戦時代の東ドイツの収容所みたいな感じがして嫌だった。店員の姿はどこにも見当たらなかった。
奥の扉の先には下に下る階段があった、地下三階には大きめのダンスフロアがあった、だが、扉の向こうには見知らぬ、使い込まれた、真上に向かって伸びる剥げだらけのペンキ塗り鉄製のはしごがあるのみだった。
これを登れ、という事なのか?
見上げるとそこは、煙突のもっとも低い位置から上部を望む様な形態で、妙に圧倒された。見事だ。こんなに近くで山を見たのは久しぶりだった。
山の新緑は緑から限りなく白に近い色彩まで、実に多彩なグラデーションを呈しており、珍しい、よい集め物となった。俺は特に美しい白い葉だけを夢中で摘み、摘みまくり、コンビニ袋満杯になるまで摘みまくり、袋に入りきらない分は食った。直にくった。
ペパーミントの香りがして、爽快な清涼感が口中に広がるのを感じた。
駄菓子屋の棚には、他にも甘いものがたくさんあったが、この白い葉ほどの魅力的なものは無かった。
すっかりガリンペイロの気分で、達成感があった。



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