風呂上がりの妻の、濡れたままの髪が、俺の腿に乗り、しっとりとした感触が伝わってきた。
彼女の右耳の穴に綿棒を、そっとすべりこませ、濡れた外耳を拭いてあげた。
目を閉じた、恍惚の表情の、少し唇を開いた、彼女の、少女の様な横顔に、はっとした。
美しかった。
この子と結婚するんだろうなあ、と感じたあの日のことを思い出した。
あのとき、あれは、思い込みとかじゃなくて、確かな、陳腐な言葉で言うなら、生まれてからただ一度だけ味わった、運命を伴った感動だった。
そのとき彼女は、4月のまばゆい光を全身に受け、燦然と輝く女神だった。
理屈では説明し難い、神の御業を感じた刹那だった。
神さん時折、大切なことを、変なタイミングで再認識させる。例えばこの、妻の耳掃除のときなどに。
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