あのね、夜中におしっこに行くわけね。
それがとても申し訳ないことだ、ってことを、今から書きます。




宵っ張りな俺は、夜になればなるほど楽しいんだ。
それは、若い頃から今までの習性に拠るところが大きい。
ご存知のとおり、夜には様々な享楽があってね、自由自在、夢見たいな時間を過ごせる、まさに黄金(エルドラド)の時間帯なのだ。ラメ入りの透明なスーパーボールが、妖しげな光を帯びているのに似た、性的な魅力があるのだ。
マンジャーレ・カンターレ・アモーレ!
だから、いい歳になるまで派手な車で夜な夜な出かけては、出かけるたびに事件を引き起こしたものだ。ハプニングは自分の享楽のためだった。
夜の生活に慣れた体では、たとえ結婚したって夜更けまで好き勝手、本を読んだり音楽を聞いたり、書き物をしたりするのだ。
そして気が付けば3時過ぎだったりする。
夢中で色んな事をしているから、たまりにたまったもンが、気の抜けた瞬間、怒涛の尿意となって股間をまさぐるのだ。
でも、夜の3時。
俺の3時と妻の3時は180度違うのだ。
妻の様に、夜遊びの「よ」の字もしなかった女には、夜の3時にガサゴソされるのは苦痛だろう。
妻は悪阻の意地悪でろくに飲み食いも出来ず、重たい腹を引き擦りながら、日中の俺の我侭に付き合い右往左往して、さぞかし疲れている筈なのだ。
だから、俺の道楽で妻の睡眠を邪魔してはいけないのではないか。いけないのだ。
でも、おしっこに行かなきゃいけないのは、人類共通のことだから、俺だってやっぱり行かなきゃならん。
だから、換気扇のブぉーッという音や、立ってするおしっこのジョボジョボいう音を立てないように、俺は真っ暗な中、手探りで便器のふたを開けて、女みたいに便座に座り、こっそりと小便をする。
でもね、毎回やっちまったな、と思うのは、ウォシュレットの便座は、座ると脱臭のファンが「ぐぉぉぉぉ!」ってもの凄い音をたてて回るんだよなあ。換気扇の音を出さないよう真っ暗な中でおしっこしてるのに、これじゃあ意味が無い。
それでも、せめてもの罪滅ぼしと、レバーを微妙にコントロールして、音が出るか出ないかのレベルで、ちょぼちょぼと水を流すのだ。




妻よ、宵っ張りでごめんね。
たぶん、キミは起きている。
寝たふりをしてくれているんだ。
俺のために。
なのに、朝は早くから起きだして、俺の朝飯を作ってくれている。
そんなキミの事を、夜の3時にキーボードをかちゃかちゃ言わせてブログに書いていたり、おしっこのたびに脱臭ファンをブンブン回しちゃって、睡眠不足にしている俺って、どうよ?








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