ベランダで酒を飲みながら、寒いからと羽織ったチーム・ジャケット。ふと、これって何ていうジャケットだったっけ?と思い、記憶の穴の奥に手を突っ込んでかき回して引っ張り出したら「N2B」という記号が姿をあらわした。 N2Bって何だ?・・・思い出した。これはゴールデンフリースN2Bフライト・ジャケットだ。
今を去る事20数年前・・・
我がガルーダの仲間で冬用のチーム看板を作ろう、という話になった。その時は「ベースはMA-1がいいだろう」と決定した筈だった。
どうだい?懐かしい響きだろう?トム・クルーズが着ていたMA-1だぜ?今となってはダサい感じも否めないが、20数年前は最先端の防寒アイテムだったのだ。
かくして、それぞれ個別にMA-1を購入する事とし、俺は俺で馴染みのアメカジショップへ出向いた。そして衝撃の出会いがあったのだ。
ショーウィンドウに展示されていたのは日本初上陸、ゴールデンフリースN2Bだったのである。その斬新なフォルムにノックアウトされた俺は、何も迷わず即N2Bを購入、これに看板を背負わせることにした。
俺の買ってきたN2Bに触発された石田は、御徒町の軍服を扱う店で官給品を買った。加藤は俺の勧めでゴールデンフリースの民間品を買った。
コヨーテ・ファーのついたフードを被って、溜まり場の喫茶店「吟遊詩人」に乗り込むと、先に来ていた神林は俺たちを見るなり激怒した。
「汚ねぇよ!MA-1って言ったじゃねぇかよお!」
神林はというと、奴は馬鹿正直だから、素直にMA-1を購入していたのだった。
先日の夕方、久しぶりの会合で仲間たちと話をしていたとき、クールスのI先輩が「お、ガルーダの冬看板じゃねぇか、久しぶりだなあ」と懐かしんでくれた。俺とI先輩のやり取りを見ていた石田は
「お前、物持ちいいなぁ、俺なんかもうとっくにどっか行っちゃったよ」
と、あっさりと言ってのけた。
価値観はそれぞれだが、どっか行ってしまっても良いものだったのか。
例えば神林は神の啓示を受け、ベジタリアンに改宗してなおかつバイクを降りた。彼にとってバイクは環境破壊を促す悪の手先だからである。
それでも彼は、MA-1の看板を、今でも背負っている。
