朝からいい天気、絶好のお出かけ日和だった。日頃悪阻が酷く、外出を嫌がる妻も、今日ばかりは出かける気分になるだろうと問いかけてみると、案の定、調子が良いという。
なので、以前から彼女が食べてみたいと言っていた中華街のとある店にて昼食をとることに決め、我々は横浜に向け車を出した。
ところが、走りはじめてすぐ、妻の調子がおかしくなった。目を閉じ、何かを堪え忍んでいるようだった。
「調子悪いのか?」
妻は閉じた目をあけることなく
「・・・振動が」
と、蚊の鳴く様な声で応えた。
振動?
車に乗って今まで、振動など気にも留めなかった。
確かに今日我々が使った車は、いつものアリストではなく、サスペンションを少し硬めにセットしたホンダのバンだった。父母の用事を充たすため昨日からアリストは使われており、家に残されていたのがホンダだったのだ。
それにしても「辛い」と感じるほどの振動を、イマジネーションの乏しい男の鈍感だろうか、自分にはその繊細な差が分からない。だが確実に妊婦には堪える一大事なのだ。
何とか無事に食事を終え帰宅することが出来たが、如何に妊婦が繊細なものであるかを感じる貴重な体験だった。普段、妊婦が何を感じるなど具体的なことは、我々無能な男どもには分からない。車にしろ何にしろ、チョイスの要素は些細なところから導かれるのだ。