246をずっと西に向かい、たどり着いたのは川崎の住宅街、一人暮らしだとばかり思っていたのだが、どう見てもこの豪邸は両親と一緒に住んでいるだろう。
「・・・大丈夫なのか?」
「何?」
「親」
「伊豆の別荘に行ってて留守なのよ」
青いランプが、薄暗い部屋の片隅に光っていた。
白い壁、白い床、ソファーまで真っ白だった。
天上にぽつんと取り付けられた10ワットの裸電球の仄かな明かりよりも、部屋の隅に光る青いランプの影響が部屋全体を支配して、まるで海底に居る様で、その青は俺の心をも支配した。
ワイン、飲む? ああ、イイね。
アシッドジャズ。
ボルドーの赤ワインに山羊の臭いチーズ。
彼女は自分の描いたデッサンやドローイングを床に広げ、俺たちは肩を並べて鑑賞した。
鑑賞しながら語り、食い、飲んで、時おり彼女の作品とは全く関係ない話に脱線したり、笑ったりした。
ワインは一本、また一本と空き、無地のカーテン越しに朝の明かりが見える様になる頃、俺たちはすっかり眠くなってソファーの上に転がった。
アシッドジャズはもう鳴っていなかった。
覆い被さるように抱きついた彼女は俺の額に自分の額をくっつけると
「襲わないでね」
とつぶやいた。
その時の彼女の瞳の輝きをどう表現したらいいのか、もう20年も考えているのに、今だに思いつかない。