深夜0時20分。毎晩この時間前後に、俺のベランダから見上げる南の上空を通過する飛行機がある。
風呂上りにベランダで涼みながら一服していると、高い空からジェットエンジンの音が届いて、ああ、例の飛行機か、と俺を和ませる。
左右の翼に赤い灯りがともり、後方にうっすらと暗く飛行機雲を引いている。月の出ている晩は、眉間に留まる月の光を受けて、まるで100年周期で回ってくる彗星の尾の様で美しい。
あの飛行機は毎晩、どこから来て、どこへ行くのだろう。


今夜、いつもの様にベランダに出て一服しながら、さて飛行機が来る時間だ、と待っていたのだが、0時30分になってもやって来やしない。
欠航か、それとも時間の変更があったのか。
こんな夜はちょっと寂しい。
誰が搭乗しているのかは分からないけど、毎晩俺の傍を定期的に通過する航空機から届く人肌を愛しく思うのに、来ないとなると、ちょっと寂しい。




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