雨が降りだしそうな重い曇天は、深夜を少しばかり明るく見せる。

まるで雪の晩の様。

なのに、一瞬だけ、二十日くらいの絶妙なお月さまが姿をあらわした。

ありがたい。

日々の忙しさや、心に引っ掛かる訳の分からないモヤモヤは、実は取るに足りない些事だって気付かせてくれるのは、いつだってお月さまだ。

俺は葉巻をくゆらせる。

葉巻の甘い香りは、お月さまのフェロモンだ。

ウイスキーの甘露を受けて、恋に堕ちるかの様に、お月さまに甘えるさ。