とろりと甘い月が出て、君は依存する。
天体の運行はうなりを上げながら突き進む戦車みたいに、我らの心をスポイルする。君はそれを過大評価し、きっと大きなものに縋りたい気持ちから、ハリウッドの脚本家が考えるみたいなハッピーエンドを期待するんだ。
日々の暮らしは矮小で弱く、確かなものが欲しくて、満月朔月に、潮の満ち干に、何かしらの意味をでっち上げて一喜一憂するんだ。
38万キロの向こう側で、月は何を思っている?
たぶん何も思わないだろうな。
俺たちが微生物の生活を考えないのと一緒で、きっと何も思わない。
俺たちも微生物も、目の前の歴史ってヤツと我武者羅に格闘して、故障した体をかばいながら暮らしているのには変わらない。でも月はそこにある。
君が月に依存するのは、他に方法を知らないからだろう?
そうであればいいな、という甘い希望や憶測で、何となく暮らしているのが君の歴史なら、それなりの未来でコンパクトにまとまればいいさ。
花鳥風月、おすまし顔の月を見る。
お月様はしらんぷりして、ただそこに浮かんでいる。 それを見て俺はビールを飲む。
それだけだ。