今じゃ無くなっちまったカフェ楽屋に夜毎の如く通っていた遠い昔、普通に店のドアを開けると、そこに屯しているマスターはじめ仲間達から大いなる叱責を喰らったものだ。
「ジェームスで入ってこいよ」


俺のダンスの師匠はジェームスだ。だから、どんなクラブで踊ってもステップはジェームスのステップだった。ジャンルを問わず全てがジェームス。
ユーロでもジェームス。レゲエでもジェームス。
フロアでは俺の周りが空いた。
かつて、いろんなダンスを試みたが、どうもしっくり来ない。で、何故だかジェームスのステップだけは一度見ただけですんなりと習得出来たのだ。
きっと俺の中にジェームスが宿っている、本気でそう思った。
彼が亡くなってからは余計にそう思える。
今でも体が忘れない様、なまらない様
、日頃自室ではファンクを流し、無意識に摩訶不思議なステップを続けている。ゲッダウン!


そんな俺だから、カフェ楽屋に入店する際にはジェームスのステップで入らなければいけなかった。
一旦外に出て、改めて店のドアを開ければ、マスターが気を遣ってジェームスの古いナンバーか、もしくはJB`sを流してくれる。
マッキントッシュと4343のセットから送り出される硬い音が、目の前にジェームスの濃い顔を浮かび上がらせ、張り裂けそうなシャウトでボディーブローを食らわすが、俺は絶対に負けなかった。負けないで踊り続けた。それがきっと見事なものだから、仲間達はいつまで経っても俺にジェームスのステップを強要した。
俺も好きだから、ついついやってしまうのがいけなかったのだろう。酔っ払って、頼まれもしないのに踊ったりしていたからな。
地元では蕨のプリンスと呼ばれる俺ではあるが、プリンスのゴッドファーザーであるジェームスが俺の実の父なのさ、分かったかbuster!


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