カワサキLTDはバーチカルツインが一般的だが、ごく稀にインラインフォーのモデルがある。
加藤が手に入れたのは四発のLTDだった。
アップハンドルをバーハンドルに換えたのは、本当はゼッツーが欲しかった加藤の趣味である。
キルスイッチを切っても、その古いエンジンはディーゼリングを起こし、何かを主張するかの如くしばらく回り続けた。
総じて言える事だが、カワサキのバイクはトラックみたいなエンジンだ。
伸びは無いがトルクが太い。そして雑である。
Z650を通称ザッパー(雑把)Z750を大雑把と呼ぶが如し。
三速に入れておけば、10キロから150キロまで、まるでオートマ車の様に走る。
加藤はそのアメリカンだか何だか良く解らない雑なバイクで、連日女の子の家をはしごして回った。何も聞かなくても、その独特なバイクの所在で加藤の居場所は知れていた。
その後加藤は念願のゼッツーを手にした。
LTDはと言うと、神林の足になった。
神林はがむしゃらさだけは人の3倍はある奴だったので、運転は無謀だった。
まだ生きているのが不思議な位だ。
クランクを曲がる時、右に左にマフラーを擦り、すわ転倒か!と思わせて転倒しない。
マフラーを支点にして後輪を大きく浮かせるのだが、接地しているマフラーをアスファルトにガリガリ削りながら、ダートトラックの要領でカウンターを当て、クランクを抜ける。
もう見ていられない。
無謀運転の世界広しと言えども、そんなコーナーリングする奴は神林位しか居ない。
だから後年、神林は過去を悔い改め、バイクを降りてベジタリアンになった。
神林がZマーク2に乗り換えて、第三京浜をオイルまみれにして、ベジタリアンになって、それからLTDはどうなったのだろう。
最近、みんながガキだった頃の夢を良く見る。
夢の中ではへんてこりんなバイク達が元気いっぱい走り回っている。
またみんなしておかしなバイクで集合出来ないだろうか。
それで福生に遊びに行くのだ。
俺は、マフラーの外れた喧しいスペイシーのケツに戸畑を乗せて行くから。