とあるテレビ番組で宮本亜門がバリ島の石市場を訪ねていた。
それを見てから、ずっと石市場を探していた。
デンパサールには見るべき観光スポットは少ないが、俺にとって石市場はどんな観光名所よりも魅力的な場所だった。
何故か。
石が好きだからである。
もともと俺の石好きはバリ島から始まったと言っても過言ではない。
パワーストーンブーム真っ最中の日本ではあるが、そんな石好きの諸氏はバリ島の石事情に触れるといい。画一的で薄っぺらな日本の石ブームとは違い、もっと情熱的で神秘に満ちている。
バリ人の石好き具合には脱帽する。
簡単に手に入る様な石になど誰も目もくれない。
レアであり、美しく、かつ確実に何らかの神秘の力を感じさせる逸品を求めるのがバリ流の石数寄事情なのだ。
石数寄達は、自分の所有する石が本当に稀有な存在なのかを確かめるために僧侶にお伺いを立てる。
それも一人の僧侶だけに留まらず何人もの僧侶を訪ね歩く。徳の高い僧侶のもとに赴いてはお伺いをたてて、同一の答えを得るまでは納得しない。
俺はそれをコミンから知らされた。

「ボクの家族が元の生活を取り戻せたのもレアな石のおかげだよ」

コミンの家族は石頼みで成功した家族だろう。兄弟達は皆商売人で、それぞれ大きく成功している。
でも元々は父親のギャンブル好きが祟っての貧乏暮らしだった。

「石ってね、綺麗だとか好きだからっていう意味で買っても慰め位にしかならないね。本当にパワーのある石って簡単に出逢えない。広い海で目の見えない亀がちっちゃな木の切れ端とぶつかるくらいレアな事だよ。だからお土産欲しいな、とか可愛いな、と思って買う石と、運命を左右する石には比べられないほどのギャップがあるんだよ」

コミンに石市場の事を聞いたが、何故か要領を得ない答えばかりだった様な気がする。何度聞いてもその場所に到達する事が出来なかったからだ。

「石市場はあぶないよ。ヤクザが仕切っているからね。石って高いから、お金の絡むところにはヤクザがいるんだ。だから、もし行くならボクが一緒に行く」

石市場を訪ね歩いて十数年、最初からコミンに頼めば良かったのに、どうしても自分で到達したかった俺だったが、最後の最後に石市場に行きたい事をコミンに打ち明けた。
コミンは、俺が今まで何度も通り過ぎてきたある一角に車を進めた。
鳥市場のメイン通りを奥に進むと行き止まりになっており、どん突きの駐車場には目つきの悪い男達がたむろしていた。

「ここね。石市場」

長年の夢が現実となる。
ついに俺は石市場に来たのだ。

「ありがとう。最初からコミンに聞いておけば良かった」

「そうだよ。だって、ここはボクの実家の裏だよ」

たむろしているヤクザ達がコミンに挨拶をする。

「なんでみんなコミンに挨拶するの?」

「みんなボクが怖いのね」

まあ、中学の時の怖い先輩、みたいな感じなのだろう。