ロットの展開した転移魔法により、異世界の廃校舎から魔界の首都へと一瞬で連行された100体の悪霊たち。彼らが強制的に並べられたのは、黒曜石でできた文字通り「桁違い」に巨大な謁見の間だった。
「ひっ、うあぁ……!」元人間の若者、田村・野本・金子の3人は、床にへばりついたままガタガタと震えていた。空間を満たす魔気の濃度が、日本の廃校舎とは比べ物にならない。空気そのものが重く、下手をすれば存在ごと押し潰されそうなプレッシャーの中、彼らの前に「それ」が姿を現した。
ドシン、ドシン、と地響きが鳴る。見上げるほどの巨体。成人男性の約3倍はあるその体躯は、光を吸い込むような漆黒の甲冑に包まれている。武力という概念を超え、世界そのものを滅ぼしかねない天災(バグ)すら凌駕する魔界最強の存在――大魔王バモラスだった。
バモラスは、ひれ伏す100体の霊たちを峻厳な一瞥であしらうと、玉座へと歩むロットの前で恭しく片膝を突いた。地鳴りのような重低音の声が、謁見の間に響き渡る。
「御意に、我が女帝よ。すべては陛下の望むままに。……して、そちらの有象無象は?」
「ええ、視察先でちょっとしたトラブルがあってね。霊気の質が優れていたから、我が国の労働力としてスカウトしてきたのよ、バモラス」ロットは20kgの鉄扇を優雅に弄びながら、まるでお土産の果物でも持ち帰ったかのように微笑む。
「おいおい、また随分と妙なモンを拾ってきたじゃねえか、ロット」その時、バモラスの横からガラの悪い、しかし快活な声が響いた。大柄で筋肉質な屈強な体格、197cmの巨体を誇る金髪の男――人間界最強の勇者、キール・ライザーだった。
彼は魔界の最高権力者の拠点をまるで実家のように出入りし、バモラスのすぐ隣で肩をすくめている。「キール。陛下に対して不敬であるぞ」「いーんだよ、ロットは俺のこういう態度、気にしてねえだろ? それよりこれ……人間の霊じゃねえか。それも、そこの3人はつい最近まで生きてただろ」キールの鋭い眼力が、田村たち3人を見抜く。
キールは彼らの前にしゃがみ込むと、ガラは悪いがどこか安心感のある笑みを浮かべた。「お前ら、面白半分でヤベえ場所に突っ込んで、そのままハメられた口だな? 同情はしてやる。だが、安心しろ。ロットの目は確かだ。お前らに生き返る身体はもうねえが、ここで腐るよりはマシな第二の人生(?)、用意してくれるさ」
「ひ、生き返れない……!? 俺たち、本当に死んだのか……?」金子が絶望に涙を流す。バットを振り回していた時の威勢はどこにもない。
そんな3人を、ロットは玉座から見下ろし、大人の女性の優しい声音で語りかけた。
「ええ、現世のあなたたちはもう存在しないわ。でも、悲観することはないのよ。彼――キールは人間だけれど、私の大切な友人。そしてバモラスは、私の信頼する筆頭家臣。魔界(ここ)は実力さえあれば過去の身分も種族も関係ない世界よ」
ロットは鉄扇をパチンと閉じ、バモラスへ視線を送る。
「バモラス。彼らをまずは後方支援の魔導部隊、あるいは領地開拓の霊気供給班へ配属してちょうだい。新兵教育(リハビリ)の間は、あまり無理をさせないようにね」
「御意。陛下の慈悲深き御心、このバモラス、深く感服いたします。……おい、貴様ら。立て」
バモラスが立ち上がり、田村たちを見下ろす。その峻厳な威厳に、3人はもはや声も出ず、ただただ「はいッ!」と直立不動で従うしかなかった。
「お前の攻撃には曇りがねえ、誰かを守るための誇り高い一撃だ!」とかつてキールに称されたバモラスの武。
そして、それすらも完璧に御する女帝ロットの圧倒的な統治能力。日本の廃校舎で世界の終わりを感じていた若者たちは、本当の意味での「世界の頂点」の歯車として、魔界での新たな第一歩を踏み出すこととなった。
聳え立つ女帝の宮殿:身の程を知る「新兵」たち
「……おい、嘘だろ。ここが、魔界……?」
光り輝く結晶と、清らかな水が幾筋もの滝となって流れ落ちる、あまりにも広大で神々しい宮殿。日本の陰湿な廃校舎から転移させられた田村、野本、金子の3人は、大理石のように磨き抜かれた床の上で完全に圧倒されていた。目の前にあるのは、およそ彼らの想像を絶する「天上の如き魔界の首都」だった。
先ほど謁見の間で彼らを見下ろした大魔王バモラスは、すでにロット陛下の執務の補佐へと戻り、その姿はない。しかし、3人は先ほどのバモラスの圧倒的なプレッシャーの余韻だけで、完全に蛇に睨まれた蛙のようになっていた。
「おい、俺たち……あの『漆黒の甲冑の大魔王』に直接しごかれるのかよ……? 無理だろ、一瞬で魂ごと消されるって!」金子が青ざめた顔でガタガタと震えながら呟く。生前、金属バットを振り回して「幽霊なんか楽勝」とイキがっていた面影は微塵もない。「バカ言え。お前らみたいな有象無象をバモラス様が直々に触られるわけなかろう」
フンと鼻で笑う声がした。3人が振り返ると、そこにいたのはロット陛下の宮殿の警備に配置されているモンスター――鈍く光る巨体を誇る「鉄巨人」だった。その圧倒的な質量と魔力は、パワーバランスにおいて「ミノタウロス」すら遥か下に置き3人が廃校舎で全力を尽くしたスタンガンや催涙スプレーなど、豆鉄砲にすらならないレベルの怪物である。
「バモラス様の指導を受けるのは難しい試験をいくつも突破した、選りすぐりの超人のみだ。貴様らのような、一般人に毛が生えた程度の悪ガキなど、合格どころか試験の門をくぐる資格すら万年早い」
鉄巨人の重々しい声が、美しい宮殿の回廊に響く。その言葉は冷酷な事実だった。魔界ナンバー2の実力者にして、世界そのものを滅ぼしかねない天災(バグ)を凌ぐ豪傑・バモラス。彼の訓練についていける者など、この広大な魔界でも一握りのエリートだけなのだ。
「ひぇっ……じゃ、じゃあ俺たちはどうなるんだよ!?」野本が情けない声を上げると、背後から「あなたたち、あまり警備の者を困らせてはダメよ」と、鈴を転がすような優しい声が響いた。
「陛下……!」鉄巨人が即座に深く頭を垂れる。そこには、20kgの鉄扇を優雅に閉じ、大人のお姉さんの微笑みを浮かべたロット陛下が立っていた。彼女自身の純粋な戦闘力は、魔界全体で見れば「中の上」――しかし、この場にいる鉄巨人をはじめ、数億の魔族を完璧に統率する圧倒的な統治能力(カリスマ)がその身から溢れている。
「バモラスは今、人間界のマルクス王との外交手続きで忙しいの。だから安心して頂戴。あなたたちには、まずこの宮殿の広大な庭園の『霊気管理(草むしりや清掃)』から始めてもらうわ」ロット陛下はクスリと微笑む。
「魔界の基準だと少し過酷かもしれないけれど、一般の悪霊用のちゃんとした段階を踏んだカリスマ教育(マニュアル)を用意してあるわ。私の国へ来たからには、しっかり働いて、立派な魔界の構成員(市民)になってもらうからね」
「は、はいぃぃっ!」3人は声を揃えて返事をした。
大魔王バモラスの地獄の訓練を免れた安堵と、目の前の美しい女帝の「優しくも絶対に逆らえない」オーラに、ただただ平伏するしかない。
世界最強格の男たちが集う、光輝く女帝の宮殿。
その最底辺のさらに下から、元人間の3人の、長すぎる「魔界の労働ライフ」が幕を開けたのだった。
「ひっ、うあぁ……!」元人間の若者、田村・野本・金子の3人は、床にへばりついたままガタガタと震えていた。空間を満たす魔気の濃度が、日本の廃校舎とは比べ物にならない。空気そのものが重く、下手をすれば存在ごと押し潰されそうなプレッシャーの中、彼らの前に「それ」が姿を現した。
ドシン、ドシン、と地響きが鳴る。見上げるほどの巨体。成人男性の約3倍はあるその体躯は、光を吸い込むような漆黒の甲冑に包まれている。武力という概念を超え、世界そのものを滅ぼしかねない天災(バグ)すら凌駕する魔界最強の存在――大魔王バモラスだった。
バモラスは、ひれ伏す100体の霊たちを峻厳な一瞥であしらうと、玉座へと歩むロットの前で恭しく片膝を突いた。地鳴りのような重低音の声が、謁見の間に響き渡る。
「御意に、我が女帝よ。すべては陛下の望むままに。……して、そちらの有象無象は?」
「ええ、視察先でちょっとしたトラブルがあってね。霊気の質が優れていたから、我が国の労働力としてスカウトしてきたのよ、バモラス」ロットは20kgの鉄扇を優雅に弄びながら、まるでお土産の果物でも持ち帰ったかのように微笑む。
「おいおい、また随分と妙なモンを拾ってきたじゃねえか、ロット」その時、バモラスの横からガラの悪い、しかし快活な声が響いた。大柄で筋肉質な屈強な体格、197cmの巨体を誇る金髪の男――人間界最強の勇者、キール・ライザーだった。
彼は魔界の最高権力者の拠点をまるで実家のように出入りし、バモラスのすぐ隣で肩をすくめている。「キール。陛下に対して不敬であるぞ」「いーんだよ、ロットは俺のこういう態度、気にしてねえだろ? それよりこれ……人間の霊じゃねえか。それも、そこの3人はつい最近まで生きてただろ」キールの鋭い眼力が、田村たち3人を見抜く。
キールは彼らの前にしゃがみ込むと、ガラは悪いがどこか安心感のある笑みを浮かべた。「お前ら、面白半分でヤベえ場所に突っ込んで、そのままハメられた口だな? 同情はしてやる。だが、安心しろ。ロットの目は確かだ。お前らに生き返る身体はもうねえが、ここで腐るよりはマシな第二の人生(?)、用意してくれるさ」
「ひ、生き返れない……!? 俺たち、本当に死んだのか……?」金子が絶望に涙を流す。バットを振り回していた時の威勢はどこにもない。
そんな3人を、ロットは玉座から見下ろし、大人の女性の優しい声音で語りかけた。
「ええ、現世のあなたたちはもう存在しないわ。でも、悲観することはないのよ。彼――キールは人間だけれど、私の大切な友人。そしてバモラスは、私の信頼する筆頭家臣。魔界(ここ)は実力さえあれば過去の身分も種族も関係ない世界よ」
ロットは鉄扇をパチンと閉じ、バモラスへ視線を送る。
「バモラス。彼らをまずは後方支援の魔導部隊、あるいは領地開拓の霊気供給班へ配属してちょうだい。新兵教育(リハビリ)の間は、あまり無理をさせないようにね」
「御意。陛下の慈悲深き御心、このバモラス、深く感服いたします。……おい、貴様ら。立て」
バモラスが立ち上がり、田村たちを見下ろす。その峻厳な威厳に、3人はもはや声も出ず、ただただ「はいッ!」と直立不動で従うしかなかった。
「お前の攻撃には曇りがねえ、誰かを守るための誇り高い一撃だ!」とかつてキールに称されたバモラスの武。
そして、それすらも完璧に御する女帝ロットの圧倒的な統治能力。日本の廃校舎で世界の終わりを感じていた若者たちは、本当の意味での「世界の頂点」の歯車として、魔界での新たな第一歩を踏み出すこととなった。
聳え立つ女帝の宮殿:身の程を知る「新兵」たち
「……おい、嘘だろ。ここが、魔界……?」
光り輝く結晶と、清らかな水が幾筋もの滝となって流れ落ちる、あまりにも広大で神々しい宮殿。日本の陰湿な廃校舎から転移させられた田村、野本、金子の3人は、大理石のように磨き抜かれた床の上で完全に圧倒されていた。目の前にあるのは、およそ彼らの想像を絶する「天上の如き魔界の首都」だった。
先ほど謁見の間で彼らを見下ろした大魔王バモラスは、すでにロット陛下の執務の補佐へと戻り、その姿はない。しかし、3人は先ほどのバモラスの圧倒的なプレッシャーの余韻だけで、完全に蛇に睨まれた蛙のようになっていた。
「おい、俺たち……あの『漆黒の甲冑の大魔王』に直接しごかれるのかよ……? 無理だろ、一瞬で魂ごと消されるって!」金子が青ざめた顔でガタガタと震えながら呟く。生前、金属バットを振り回して「幽霊なんか楽勝」とイキがっていた面影は微塵もない。「バカ言え。お前らみたいな有象無象をバモラス様が直々に触られるわけなかろう」
フンと鼻で笑う声がした。3人が振り返ると、そこにいたのはロット陛下の宮殿の警備に配置されているモンスター――鈍く光る巨体を誇る「鉄巨人」だった。その圧倒的な質量と魔力は、パワーバランスにおいて「ミノタウロス」すら遥か下に置き3人が廃校舎で全力を尽くしたスタンガンや催涙スプレーなど、豆鉄砲にすらならないレベルの怪物である。
「バモラス様の指導を受けるのは難しい試験をいくつも突破した、選りすぐりの超人のみだ。貴様らのような、一般人に毛が生えた程度の悪ガキなど、合格どころか試験の門をくぐる資格すら万年早い」
鉄巨人の重々しい声が、美しい宮殿の回廊に響く。その言葉は冷酷な事実だった。魔界ナンバー2の実力者にして、世界そのものを滅ぼしかねない天災(バグ)を凌ぐ豪傑・バモラス。彼の訓練についていける者など、この広大な魔界でも一握りのエリートだけなのだ。
「ひぇっ……じゃ、じゃあ俺たちはどうなるんだよ!?」野本が情けない声を上げると、背後から「あなたたち、あまり警備の者を困らせてはダメよ」と、鈴を転がすような優しい声が響いた。
「陛下……!」鉄巨人が即座に深く頭を垂れる。そこには、20kgの鉄扇を優雅に閉じ、大人のお姉さんの微笑みを浮かべたロット陛下が立っていた。彼女自身の純粋な戦闘力は、魔界全体で見れば「中の上」――しかし、この場にいる鉄巨人をはじめ、数億の魔族を完璧に統率する圧倒的な統治能力(カリスマ)がその身から溢れている。
「バモラスは今、人間界のマルクス王との外交手続きで忙しいの。だから安心して頂戴。あなたたちには、まずこの宮殿の広大な庭園の『霊気管理(草むしりや清掃)』から始めてもらうわ」ロット陛下はクスリと微笑む。
「魔界の基準だと少し過酷かもしれないけれど、一般の悪霊用のちゃんとした段階を踏んだカリスマ教育(マニュアル)を用意してあるわ。私の国へ来たからには、しっかり働いて、立派な魔界の構成員(市民)になってもらうからね」
「は、はいぃぃっ!」3人は声を揃えて返事をした。
大魔王バモラスの地獄の訓練を免れた安堵と、目の前の美しい女帝の「優しくも絶対に逆らえない」オーラに、ただただ平伏するしかない。
世界最強格の男たちが集う、光輝く女帝の宮殿。
その最底辺のさらに下から、元人間の3人の、長すぎる「魔界の労働ライフ」が幕を開けたのだった。